たったひとこと【第1話:どんな2人?】-1
フフフンフンフン♪
フフンフフン♪
浴室からシャワ―音に乗って軽快な鼻唄が聴こえてくる。毎朝変わる彼のオリジナルノ―ズソング。
フフフンフンフン♪
フンフフフンフン♪
ユニットバスに心地良く反響するメロディラインに、こりゃミリオンだな、と確信した瞬間、男は異変に気付いた。
ガラス戸が黒い。否、その向こうが薄黒く霞んでいる。
「まさか・・・」
鼻の使い方を本来の機能に変えてみる。
くんくん、くんくん
・・・臭い。
慌ててびしょ濡れのまま飛び出してみると、辺り一面煙だらけ。さながら水をかぶって突入した消防隊員よろしく火元を捜す。
彼の目に、中古で買ったオ―ブント―スタ―が映った。
「・・・ここか」
時限爆弾の上ぶたを外すように慎重に開いてみる。
中には炭化した食パンと脂気を失ってシュ―シュ―いっているウインナ―二本。
「助ける事が・・・出来なかったか」
がっくりとうなだれる男。が、すぐに元気になり
「しか―し!こんな事もあろうかと(?)昨日コンビニで買ったおにぎりが一個残っているのだよ!ア―ッハハッハッハ!!」
高笑いのままゴソゴソと戸棚を探してみる。
「フンフン♪お?イエス!あったぜ、マイライスボ―ルインおかかァ!!」
嬉しさのあまりおにぎりを掲げ勝利のポ―ジング。
その時、扉は開かれた。
「大丈夫ですか!?火災報知機の反応があったので駆け付け・・・」
玄関にはホンモノの消防隊、管理人、住人の方々まで野次馬に集まったご様子。
目の前には朝っぱらから煙に巻かれて全裸一丁でポーズをとっている男。散らかった部屋。そして部屋を覆い尽すように貼られた写真。
(よく分からんが・・・大丈夫じゃない!)