たったひとこと【第1話:どんな2人?】-3
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「名前は?」
「・・・沖成之」
「おきなり、ゆきくん?」
「・・・いえ、おき、なりゆき、です」
「おき、おきくんね。歳は?」
「16」
「高校生っと。それじゃ」
「・・・管理人さん。そんなの管理人さんが調べたら分かるじゃないですか。俺もう学校遅刻しそうなんで行ってもいいスか?」
「アレ?君は月島高校だろう?歩いても10分位じゃなかったっけ?」
こういうどうでもいいことは覚えている。
「・・・朝練なんす」
「まあ特に変な物が見付かった訳じゃないしね・・・ただ最後に聞いとくけど、君、本当にスト―カ―とかそんなんじゃないよね?」
壁に貼られた写真を見回しながら管理人が尋ねる。
「だから写真は好きなアイドルですって。こんなに可愛いんだから分かるでしょ」
「確かに可愛らしいけど、こんな娘テレビでみた事ないしなあ」
「テレビの仕事はまだなんです!何でこんな警察まがいのことするんですか!」
成之の剣幕に押され管理人さんは禿げた頭を掻いて
「ああ、いやね、だって最近変質者が近くに出るから気を付けろって警察から連絡が・・・」
「それで俺っすか」
いやあのとよく分からないことを口走りながら管理人は一礼して逃げるように出ていった。
ため息をついて携帯を見る成之。
8時15分。
「もう時間だな。朝飯は・・・抜きでいいや」
そう言って成之は一番大きく印刷された、おそらく等身大であろう女の子の顔をぼ〜っと眺める。
ニッコリと笑っているその顔に思わずニヤけてしまう。
「お〜は〜よ〜♪し〜の〜・」
男の顔がトロトロにトロけてゆく。
「ごめんな、アイドルだなんて嘘ついちゃって。まあ詩乃はそこらのアイドルより全然可愛いけどな・」
写真スレスレまで顔を近付けてみる。
「何度見てもかわええなっ♪うへへへ」
しばらく、ぼ〜〜〜〜
「・・・ハッ!ヤベ―遅れちまう!んじゃ行ってきま〜す」
誰もいない玄関に声を掛け、靴を揃える。
成之は朝の空気が好きだ。
今まで部屋の中にあった暖気と外の冷気が混じりあっている感覚が何ともいえなくて思わず伸びをひとつ。
「・・ゆっくりもしてられないしな」
言い終わらない内に男は新曲の鼻唄と共に駆け出していた。