【今だけは・・・恋人でいて・・・・】-1
暗闇に浮かぶ指先は紅いマニキュアが妖しく光っている
女の細い指先が男の裸の胸に丸く孤を描いた
「はあん・・・あん・・・・ん・・高志さ・・・わたし・・・もうぅ・・・イキそうぉ・・・」
ぎしぎしと軋む音をたてる安物のベッドで
男の上にまたがり、赤茶色の髪を振り乱しながら美由紀は一心不乱になって腰を振り続けていた
「いっ・・・いいよ、美由紀・・・」
激しく抽送を繰り返す部分からはビチャビチャという淫靡な水音が漏れ狭い女の部屋に響く
「あん・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁん・・・」
突き上がる度に、女の中から蜜が溢れて男の腿を濡らせていた
汗ばんだ白い女の肉体の中は熱く男を締め付ける
くびれた女のウエストを支えている男の手が食い込んで快楽に喘ぐ美由紀の中で男の肉塊は急速に堅さを増した
「ああっ────!」
脈打つ律動、突き上がる快感に、乳房を揺らして大きく仰け反るとひときわ高い嬌声が美由紀の赤い唇から漏れた
美由紀の中で男は弾けて、そして萎んだ
弛緩した身体を投げ出すように男の腕の中に美由紀は倒れこんだ
「はぁ・・・・ん、高志さん・・・」
「・・・良かったよ、美由紀」
夢見るように微笑んで美由紀は男の胸に口付けた
美由紀が高志と出会ったのは会社の中で、新入社員として入った課の主任が高志だった
穏やかな物腰、落ち着いた大人の男の魅力に満ちた高志に短大を出たばかりの美由紀は気付いたときには夢中になっていた
だが、既に高志には妻も子もある身だった
それを知ってなお、諦め切れなくて・・・・
独占したいとは思わないから、貴方の家庭を壊そうとは思わないから
せめて、一度でいいから抱いて欲しいと美由紀は高志を誘った
そうして時折、高志は美由紀の部屋を訪れては関係を持つようになった
美由紀はうっとりしながらと高志の唇に自分の赤い唇を押し付けた
アレから何度抱かれたか
今だけは、こうして私の部屋で裸で抱き合っている間だけは愛人じゃなくて
私は貴方の恋人よ・・・・
身体を繋ぐ
快楽だけの関係でいい
そこに何のわずらわしさも無い
肉欲を満たす、この行為が私には最高の幸せだから・・・・
そんな美由紀の想いを知ってか知らずか・・・・
名残惜しげに高志は美由紀の余韻の残るカラダを抱きしめた
男は行為が終わると、自分の身体の上で弛緩し粗い息をしている若い女を横たえた
慌てたようにつけていた避妊具を外し丸めて棄てると、そそくさと身支度を整え始めた
ワイシャツの袖に腕を通す手を休めることなく鏡を見ながら部屋に入ったときと同じになるようにネクタイを締めた
「じゃ、明日会社で・・・」
そう言うと高志は黒い書類鞄を抱えると、スーツの埃を軽く払って女の部屋を出て行った
部屋には美由紀と男の残り香が残された
その香りを逃さぬように、美由紀はそっと自分を掻き抱いた
Fin.