姫×菊丸〜はじまり之巻〜-2
「い、いけませぬ…!姫がたかが付き人めに…!それに、それは私が姫のためにと頂いてきたものですから……二つ共、姫に食べて頂かねば……」
「四の五の言わずに口を開けなさい。菊丸は静の言うことが聞けないのですか?」
「い、いえ…!決してそのようなことは…。しかし、その楊枝はすでに姫が口を付けられたもので……。」
「静が口を付けた楊枝は汚らわしくて食えぬ、と申すのか?」
「い、いえ!滅相もございませぬ!されど……。」
「されど…?」
「されど……」
「……あぁ、もう焦れったい!」
姫はそう言うと、空いた手で裾を掴み上げ前屈みになり……何と突然、菊丸の頬に接吻をした。
「ひ、姫……」
魚のようにぱくぱくと動く菊丸の口に、姫は『かすてーら』を突っ込んだ。
「どう、美味しいでしょう?」
菊丸はろくに噛みもせずに飲み込む。
「は、はい……美味にございます…。」
顔を真っ赤にして頷く菊丸。何とも純な心の持ち主である。
…全く、うらやま…いやいや、不謹慎な…。
今度、菊丸に説教を食らわす必要があるな…。
そして説教ついでに『かすてーら』を頼む必要もあるな…。
「菊丸。あなたは先刻、『たかが付き人めに』と申しましたね?」
「…は、はぁ。」
「撤回しなさい。」
「な、何故です…?」
「……わからないのですか?静は菊丸のことが………ここから先は己で考えなさい。」
姫はそう言うと、先刻接吻をした菊丸の頬を楊枝で強めに突いた。
「痛たぁっ…!」
「それは先刻の発言の罰です。」
「も、申し訳ありません。撤回します。」
「ふふっ。」
顔をしかめて両手で頬を擦る菊丸。
微笑んで空を仰いだ姫の頬は微かに赤らんで、すっかり?乙女?の顔になっておられた。
恋に生きる若者は、見ていてなんとも微笑ましいものだ。
拙者も若い頃は……いや、この話は長くなるので止めておくことにする。
姫と付き人……
ふたりの道のりは多難で障害だらけであろう。
その折にはこの爺やが盾となって助成……してやろうかのぅ……。
『かすてーら』のひとつでも包んでくれるのであれば、考えてやらないでもないがのぅ……。
「姫。」
「…ん?」
「先刻、姫が言われたことを考えてみたのですが、姫は私のことを………痛ったぁっ!!」
「…それ以上、口にしてはなりません。」
「お、同じ場所を……」
「あら、血が滲んでるわね。また口付けしてあげましょうか?」
「ひ、姫がやったのに……」
「…何か言った?」
「い、いえ何も…!……私、顔を洗って来ます」
「……あら、逃げられた。」
……今日もふたりは、前途多難な道のりを一歩一歩進んでいく。
以上、爺やがお送りいたしました。
姫と菊丸、ふたりの物語はまだまだ続く……。