無味乾燥-1
?〜キミへ捧げる手紙〜
『キミが居なくなってからもう一ケ月がたとうとしているよ。早いものだね。月日がたつというのは……。
今でも扉を開けるとキミがやってきそうだよ。
思い出だけがすぐに通り過ぎて行く。人間はよくできた動物だよ。
過去を振り返ってはいけないけど、思い出だけは消しちゃいけないんだよね。
キミと過ごした二年は本当に楽しかったよ。ありがとうをキミに捧げるよ。
今は亡きペット・タカに捧げる手紙』
これを書き上げたとき思わず涙が零(こぼれ)れ落ちてしまった。
何やってるんだ、僕は。 そう何度も心の中で呟いていた。何処にも届かないと知っているのに……。誰も読まないと知っているのに……。
だけど、実際書き上げると、考えが変わった。タカの事を忘れないようにこの手紙をしたためたんだと考えた。
だから、僕はタカの事を忘れない。いくら僕が成長したからといって、思い出は消えない。永遠に消える事のない思い出を心に刻み付けて、僕は生きていく。ありがとう、タカ。
?ある夜の物語〜The night of fear〜
僕は叔母さんの家に来ていた。この時期――お盆や年越しの近く――になると、必ずここに来るのだ。寝床に着物を着て、ショートカットの髪型の人形――和風人形がある。それも一体だけではない。布団を囲むように、必ず六、七体はある。そんなお盆の夜の事だった。
お盆のある夜、叔母さんの家で寝ていた。最初来た時は人形が不気味だったが、ここに来る回数を増やしていくとそれにも慣れ、今では気にせず寝るの事が出来ている。
その夜突然、金縛りにあった。首から上の頭だけが自由を得ている。だが、それ以外はまったく動かない。金縛りにあっているから、当然なのだが……。
どこからともなく子供の声が聞こえてくる。アハハやキャハハという声だ。チラッと横にある時計を見たかぎりでは、既に時刻は真夜中だ。誰もが眠り着いている時間であるのだが、確実に子供の声が聞こえる。
何かが、僕の身体を揺らし始めた。それも片方からでなく、両サイドから揺らすのだ。更にまた子供の声が聞こえた。
『ねぇ、お兄ちゃん。遊ぼうよ。ねえ!』
何が起きているのか分からなかった。背中がゾクッとし、鳥肌が全身にたった。ここから逃げなければ! 何か言わなくては! 金縛りにあっているし、声も出ない。
そうやって、もがいて横を見ると少女が僕の身体を揺らしている。縮尺が違う少女だ。とんでもなく小さい。まるで、人形が本当に人になったようだ。違うところを挙げれば、髪が長くなっている所だ。
『ねぇ、お兄ちゃん。遊ぼうよ。ねえってば!』
縮尺の違う少女は泣き始めてしまった。
『どうして、遊んでくれないの……?』
さっきの少女が布団の上を這ってくる。その後ろに恐ろしい顔が浮かび上がっていた。逃げろ! 逃げろ! 逃げろ! 頭の中でこだましていた。次どうすべきかわかっていた。
「うわぁー! 来るな! 来るなぁー!」
目覚めると、寝床だった。寝る前と何一つ変わらない。だが、布団の上に一体の髪の長い人形がぽつんと居た。さっきまで夢だと思っていたが、現実でありまた鳥肌がたった。
「ねえ、叔母さん。この人形って、髪短かったよね?」
「何言ってるの? 髪は長かったじゃない。夢でも見たのかしら……?」