『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-90
第3話 「Re.START 〜始動〜」
春である。新しい季節を迎えた街は、至るところに新鮮な空気が満ちていた。
それは、双葉大学も同様である。城央市から電車で1時間ほどの距離にある双葉市の、小高い丘にそれはあった。
双葉大学は、縄文・弥生の史跡が数多く出土されてきた双葉市の歴史研究を一手に担っている。所有している学部は史学部と考古学部の二つだけとはいえ、史学に情熱を注ぐ若者たちで活気に満ちたキャンパスの様相は、総合大学にも劣らない活況を見せていた。
「草薙君!」
先だって郵送されてきた要項に従い、入学式の会場となる“志史館”に向かって足を進めていた大和を元気な声が呼び止めた。振り向かなくても、それが誰だか大和にはわかっている。
「蓬莱さん」
それでも姿は確認したい。すぐに大和は振り向くが…、
「………」
そのまま言葉を失った。
入学式ということで、彼女はフォーマルな装いをしていた。それが、高校のときの制服姿や私服のときとは違うすっきりとした印象があって、心を打たれたのだ。
(綺麗だな……)
彼女は、大和よりも長身だ。なにしろ180センチを優に越えている。バレーボールで全国的に有名だった過去を持つが、スポーツに通暁していたことで引き締まっている体のバランスは、非常に健康的なオーラも醸し出していた。
薄くはあるが、化粧もしていた。もともとが美しい目鼻立ちを持っている彼女だから、そのうえに粉飾を施したの言うのなら、効果は計り知れない。
はっきり言おう。桜子はとても“美人”だ。さらに、ふくよかで和やかな雰囲気がその美しさをまろやかに覆い、大きな包容力をも生み出している。
「あ、あの……草薙、くん?」
「ああ、ゴ、ゴメン」
見惚れてしまっていた。大和は咳払いをするように口元を抑えると、桜子に微笑んで見せた。
「スーツなんだね」
「まぁ、今日は特別だから」
くるり、と大和の前で一回転。見た目の装いとは違い、相変わらずの無邪気な振る舞いに、大和は軽く吹きだす。
「なんかさあ、着慣れないから動きづらくって」
「僕もだよ」
大和もスーツである。
どちらかというと、大和のスーツ姿の方には違和感がある。身長は176センチとまずまずの高さを持っているが、いかんせん“童顔”であることがこの場合、逆に作用していた。
「なんか、こう、落ち着かない……」
ネクタイがしっくりきていないようで、なんどもその結び目を確かめては、スーツの頼りなさに辟易としている様子である。要は、見た目も中身もスーツに“慣れていない”のだ。
『あと10分で、入学式を始めます』
「あっ」
なんとなく立ち止まり、時を過ごしていた二人を促すアナウンス。
「行こうか?」
「そうだね!」
肩を並べるようにして、歩みを始める二人。行く先は、今のところは入学式の会場である志史館だが、二人の足元にはこれからの道程が幾重にも伸びているように見えた。