『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-67
きゅ……
(………)
その光に触れるや、桜子の胸は軽く締め付けられた。細かな動悸が胸を打ち、それが熱さを伴って全身をかけめぐり始めた。
どき、どき、どき……
(わ、わっ……)
自分の体のことだというのに、自制が利かない。今度は自分が、大和の横顔から視線を離せなくなってしまった。
質の違いこそあれ、互いの中に確かな燻りを持ちあう二人。
そんな二人の前で、試合は続いていた。
初回の1点だけが、この試合における唯一の得点となっていた。1部と2部の入れ替えを賭けたこの試合も、終盤の7回を迎えている。
双葉大学のエース・屋久杉雄太は、そのコントロールの良いストレートと、曲がりの大きいカーブを駆使して享和大の打線に的を絞らせず、この下位まで散発の3安打に押さえ、三塁を踏ませない完璧な投球内容である。
かたや享和大学も、塁上をにぎわせることが多かったが、随所できっちりと締めるところは締めて、相手を1点に抑えている。
1と0だけが刻まれるスコアボード。その整然とした様の中に勝負の流れを見ようとすれば、1点をリードし、何度も好機を手にしている双葉大学が、相手を押していることは明白だ。
(しかし……)
押し切れていない、と大和は見る。ほとんど毎回、得点圏にランナーを進めながら、その好機を生かせずに、結局は1点のみで終盤に入っているからだ。
好機を逃し続けると試合の“流れ”は、気がつかないうちに相手に傾くことが往々にしてあるものだ。それを知っている大和は悪い予感がして、どうにも落ち着かない。
「あと、3回もあるんだね」
不意に、そう呟いた桜子。本当なら、“3回しか”と表現すべきところを彼女は“3回も”と言った。
(彼女も、感じているんだ)
双葉大学が保っているようにみえる“勝負の流れ”が、揺らぎを見せていることに…。
「!」
その揺らぎがはっきりと相手に傾きを見せたと知らしめたのは、この回の先頭打者が放った打球が、二塁手の前で大きくイレギュラーし、ヒットになってしまったことだった。
「ドンマイ、ドンマイ!」
エラーではないが、なんとなくバツが悪そうな二塁手の吉川に対し、雄太は陽気に声をかける。彼にはまだ、この一事が示す“流れ”の変化を掴みきれていないらしい。
こっ……
続く打者の送りバントは、ライン際ギリギリのところを転がった。打球がいいように死んでいたそれは、すぐにでもファウルラインを切れそうに思えたのか、捕手の留守は捕らずに見守っている。
(ダメだ! 捕らなきゃ―――)
大和が身を乗り出したとき、そのボールはラインの内側に軌道を変え、そして、止まった。
「フェア!」
「っ………」
ファウルになると見えた送りバントが、結局は内野安打になり、無死一・二塁というピンチを生み出してしまった。“流れ”が、どんどんと相手に傾いている。
「ツイてなかっただけだ。心配すんな」
雄太はあくまでも明るい。確かに、この試合で初めてピンチを迎えたといってもいいが、自慢のカーブはまだ相手に完全な当りを許してはいないから、彼は、このカーブを軸に配球を整え、“ゲッツー狙い”でいこうと考えている。