投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 500 『STRIKE!!』 502 『STRIKE!!』の最後へ

『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-222

 ヒュンッ! スパァンッ!

 ヒュンッ! スパァンッ!

「ストライク!!! バッターアウト!」
 ドラフターズの5番打者はまるで気圧されたように、ひと振りもしないまま見逃しの三振に倒れていた。
(ど、どうしちゃったんだろ。大和君、すごすぎる……)
 集中力を研ぎ澄ませ、大和の投げる球に意識を注いだので、ボールの軌道を見失うことはなくなったが、これまでにない球威に対する戸惑いが桜子の動きをぎこちなくしている。
「ストライク!!! バッターアウト!!」
 一方、大和の勢いは衰えを知らず、6番打者も空振りの三振に仕留めていた。
「いいぞ、大和! 絶好調だな!」
 ファーストに廻った雄太にも、今日の大和が非常に良い出来であることがわかった。ただし彼は、横から大和の球筋を見ているので、桜子や栄輔のような衝撃は感じていない。横から眺める視点と、正面で受ける視点とでは、その見え方にかなりの相違が生じるものである。
 もしも雄太が打席の中に立っていたならば、桜子達と同じような反応をしただろう。しかし今、その反応を見せたのは打席に入った7番打者の新村だった。
「ストライク!!! バッターアウト!!!」
 新村は初球から振りにかかってきたが、そのバットに触れることさえできず、三球三振に切って取られた。
「とほほ……」
 全てがストレートであったにもかかわらず、手も足も出なかった新村の落胆ぶりは、見ていて気の毒なほどである。
「ナ、ナイスピッチ」
 三者連続三球三振。普段の桜子ならば、喜びを満面に表して大和のところに駆け寄っている。しかし、劇的に変化した彼の投球内容に思考が追いつかず、彼女はぎこちない動きで守備位置を離れ、ベンチに戻っていった。
(よし、いい感じだ)
 そんな桜子の様子にも気付かず、大和は、ピッチングの手応えの良さを噛み締めていた。腕が、自分の思うとおりに振れているのである。投げる瞬間、不意に顔を出すことのあった肘の違和感も、いまのところ全くない。
(成果が出てきたんだ)
 投手としての復活を強く心の中に期して、これまで重ねてきた練習が実を結びつつある。確かな実感が、大和の中にあった不安を取り除き、再び芽生えた自信が大きく育ち始めていた。
(次の回だな)
 最終回に廻ってくるはずのとある打者を思い、大和は右拳を握り締める。
(あの人を、抑えることが出来れば……)
 自分の中で甦ってきた自信を、確信に変えるためには結果が必要だ。
(あの人に、勝ちたい)
 今まで出逢ってきたスラッガーの中でも、指折りの実力者だと認める相手を打ち取ること…。それが大和の中で、悲願にも似た感情となって強く湧き上がった。
「あっ……」
 不意に大和が向けた視線の先には、やはり同じようにこちらを凝視する亮がいた。口元に笑みこそあるが、その表情には三塁ベース上で会話をしていたときの温厚さは微塵も感じられない。挑みかからんとする威圧感がオーラとなって、彼の身体から濛々と立ち上っている。

『勝負!!』

 不意に交錯した、互いの思惟。確かな響きで通じ合った意識の中で、二人は交感していた。それは“好敵手”に巡り会ったという喜びも含んでいる。
 歳の差や、職業の違い、そして、野球人として重ねてきたこれまでのキャリアなどは、今の二人には関係がない。ただ、己の持てる実力を、真っ向からぶつけ合って戦おうという強い意思があるのみだ。
(勝ってみせる…)
 湧き上がる勝利への渇望に、大和の魂魄は青い炎を燃え上がらせる。
 彼の野球人生において、大きな“モーメント(契機)”となった亮との対決。それが間もなく、試合の中で繰り広げられようとしていた。




『STRIKE!!』の最初へ 『STRIKE!!』 500 『STRIKE!!』 502 『STRIKE!!』の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前