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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『SWING UP!!』(第1話〜第6話)-2

 ブチィッ!

「!」
 誰の耳にもはっきりとわかる、ゴムが伸びきって切れてしまったような音。
 それが自分の内側から聞こえてきた桜子には、もうひとつの刺激が襲いかかった。
「う、うぁあぁぁぁ!!」
 左足首の先が、吹っ飛んでしまったかのような激痛。普段は“負”の感情を表に出さないように努めている桜子が、その意志を覆されてしまうほどに強烈な痛みだ。
「さ、桜子!」
「どうしたの! 桜子!」
 緊迫した試合に集中力を研ぎ澄ませていたチームメイトたちが、我を忘れたように慌てた様子でうずくまっているエースアタッカーの側に寄る。
「痛い! 痛い、痛い、痛いぃぃッ!!」
 そんな仲間たちの声も耳に入らないまま、桜子は左足首を抱えながら、コートの上をのた打ち回るのだった。 ……』



「経過は、頗る良好だよ」
 初老の医者が、桜子の脚をマッサージしながら笑顔で言う。その柔らかで優しい手もみの動きによって、痺れたような鈍い感覚が残るアキレス腱の強張りが解きほぐされた。
「こんなに早く、しかもここまで回復するとはね。ほんとうに、良く頑張った」
「えへへ。ありがとうございます!」
 足首に残るはっきりとした手術痕。年頃の少女に刻まれたものとしては、少しばかり残酷にも思えるその傷跡も、しかし、彼女の陽気に触れると、それがなんでもないように見えてしまうから不思議である。
「また、バレーボールをするのかい?」
 マッサージを終え、テーピングをしっかりと足首に施しながら桜子に問いかける医師・杉原。目の前にいる少女が、高校生でありながら日本代表にも選ばれていたバレーボールの選手だったことを思えば、当然の問いかけであろう。
「うーん……昔みたいに、できるんなら考えますけど……」
 それが無理だと誰より承知しているのは、当事者の桜子である。
「やっぱり無理かなぁ。自分でも、わかります」
「そうか……」
 医師として、事実ははっきりと告げたほうがいいと思っていた杉原である。しかし、その現実をいち早く受け止め、既にそれを消化してしまっている桜子の様子を見て安堵した。(強いな、この娘は……)
 背負った障害にも負けずに前向きである。ひょっとしたら、負ってしまった大怪我に対し、それが“不運だった”という感覚さえないのかもしれない。その明るさには、感心させられてしまう。
「バレーはすっぱり諦めて、今度は別のスポーツをしようと思うんです。せっかくだから」
「ほう?」
 気持ちの切り替えも、早い。バレーボールでは、雑誌の表紙にもなるほど有名で、その将来を嘱望された選手でもあったのだから、そういう“過去の栄光”にしがみつきそうなものなのだが…。
「あたし、野球をやろうと思うんです」
「野球を?」
「はい。お兄ちゃん……義理の兄なんですけど、その人が草野球のチームを持ってて、実はもう、そのチームに入れてもらってるんですよ」
 にこにこ、と陰もなく笑う桜子。
“野球”を語る時の、とても嬉しそうな桜子の笑みに、杉原は訊いてみたくなった。
「本当はバレーよりも野球のほうが好きなんだろう?」
「あはは。大正解!!」
 だから、こんなに早く気持ちを切り替えられたのか…と、杉原は納得する。
「確かに、野球ならバレーボールみたいに飛んだり跳ねたりはないから、アキレス腱への負担も軽くて済むだろうね。……そうか、野球か。うん、それはいいね」
 そして、失ってしまったものへの未練にこだわらず、新しい道を見つけてそれに邁進している桜子の見事なまでのプラス思考に、舌を巻くのであった。


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