***君の青 C***-1
雫がここへ来てから、僕の身の回りが少しずつ変わっていった。
親父やおふくろとの生活とは別の、新しい世界。毎日が新鮮で、朝を待つのが楽しみで仕方がない。
夜が不思議に短く感じるようになったのも、彼女との生活が始まってからだ。
楽しい時間は足早にすぎていくと言うが、まさにそれである。僕らはお互いの用事を済ませると、必ず居間に入ってゲームをしたり、それに飽きたら話をしたりした。話の内容は主に彼女が引っ越した後の、それぞれの生活についてだった。笑えること、つらかった事、そして何かの拍子にお互いを思い出したこと。片方が話せば、もう一方は食い入るようにその話を聞いた。彼女の数多い話の中でも、僕の興味を一番引いたのが高校生の頃に同じクラスのやつに告白された話だった。なんでも、身長が百八十センチちょっとでバスケット部のキャプテンという、俗に言う、それはそれはいい男だったらしい。その間、僕はからかい半分に聞いていたが実のところ心臓に冷や汗をかいていた。どういうわけか、腹の底からマグマのように熱い何かが込み上げてたのを、僕は覚えている。
そして今、僕らが話しているのは幼い頃の話である。僕の目の前で、雫が何かにとりつかれたかのように昔話を続けている。僕はソファーに寄りかかりながら、その話を聞いていた。
「そういえば、ほら、覚えているでしょう?二人で青い鳥を探し回ったあの場所。
あのジャングルのような森よ。あそこを登りきった時に見える景色がとても綺麗でさ。まだ覚えているよ」
うっとりして、彼女は言った。
「あのジャングルも、きっと今見たら小さく見えるだろうね」
と、僕は笑った。すると彼女はハッとして、僕の顔を覗き込んできた。
「今度行こうよ!暇な時でいいからさ」
「ええ?」
「行こうよ。それでまた走り抜けるの、あの長い道を全速力で。行こ?ね?」
そう言いながら、雫は父親におねだりする子供のように僕の袖をぐいぐい引っ張った。こんなかわいい娘にねだられて、断れる男はいない。
「分かった、分かった」
と、言いながら、僕の顔の筋肉もつい緩んでしまう。ひょっとすると、彼女はその魅力の程を、自分でもよく理解しているのかもしれない。