『STRIKE!!』(全9話)-35
「でも、出塁するのが第一です」
一方で、彼のアウトはそのほとんどがフライによるものだった。故に、その脚力を生かせないでいる。
「彼の俊足は、才能よ。打つことなら、努力でなんとかなるんじゃないの?」
「……努力、ねえ」
諦めのため息を晶から発せられた。なぜなら、長見の野球に対する姿勢から、努力と言う言葉はどう考えても引き出せそうになかったからだ。
「俺が、何とかしようか?」
亮が言う。しかし、晶は、
「亮じゃ、なおさら言うこと聞かないと思う」
そう言って首を振った。
「そうか……」
「それじゃ、近藤は?」
「既に諦めました」
高校時代のときに、と付けくわえる晶。なにしろ人の指導を聞こうとしないらしいのだ。
練習嫌いとかそういうのではないのだが、指図されるのを好まないらしい。何か自分の限界を超えて頑張ると言うのも、自分のポリシーに反しているのだろう。
「頑張るのが、カッコ悪いと思ってるんだから……」
全てはそこに行き着く。
「1番もそうですけど、もう1枚大砲が欲しいですよね」
「あら、控え投手も必要よ」
やはり、10人と言うのは戦力として何とも少ない。
「前途、多難よねえ……」
入れ替え戦のときはかなりいけると思ったのだが、やはり事はそう甘くはないようである。
「そうだよなあ。勝とうと思えば、足りないものばっかりさ」
帰り道の途中、亮と晶はなおも野球談義に花を咲かせていた。
「トーナメントみたいに一発勝負とは違うから、戦力の差っていうのがまともに出て来るんだ。何試合もするわけだから、その時々で調子の差があったり、怪我をしたりする人もいるから」
「ふ〜ん」
高校野球のときも、賭け野球のときも一戦一戦に全力を傾ければよかったわけで、どうもリーグ戦というものにピントの合いづらい晶であった。
―――少し、説明が必要だと思う。
城南第二大学・軟式野球部が所属している“隼リーグ”は、6チームの総当たりで試合が行われる。9回完全決着、その内容如何に関わらず勝利したチームには勝ち点が3、引き分けの場合は1が与えられる。そして、その合計点が最も多いチームが、優勝と言うことになるのだ。
それが前後期に分けて行われるのだから、総合の試合数は10になる。ちなみに5,6月に前期日程を、9,10月に後期日程が行われる。
一応、前期・後期の優勝チームは別々に表彰されるが、総合優勝は全試合の勝ち点によって換算されるので、トータルで戦果と戦況を見なければならない。
「だから、それなりの戦術眼も必要になって来るんだ」
「ややこしいわね……」
「まあ、ひとつひとつ勝っていかなきゃいけないのは、同じことだけどな」
「それもそうね」
話がまとまりを見せた頃、亮の部屋に二人は着いた。亮は胸ポケットから鍵を取り出し、ドアを開け、晶を中に迎え入れる。
「あ、亮。シャワー先に使ってもいい?」
「いいよ」
「それと、お肉、冷蔵庫に入れておいてね」
「おう」
晶は、随分と慣れたような感じである。それもそのはずで、二人の心と体が繋がったあの日以来、晶はこの部屋に通い詰めだったからだ。
人間の適応能力は優れたもので、最初は何かと照れて余所余所しかった亮も、今では晶のいる風景にすっかり慣れてしまっている。
といって、爛れた生活を送っているわけではない。むしろ、亮らしい規律正しさで二人は絆を深め合っていた。
まず、試合のある3日前は晶には実家に帰ってもらっている。当然、その間のHは禁止。それがリーグの結果に反映しない練習試合のことであっても、亮は遵守している。