『STRIKE!!』(全9話)-34
第3話 「戦 力!!」
ぽこっ…
誰が聞いても、当りの悪い音が響く。力なく舞い上がった打球は、そのまま野手のグラブに収まった。
二死満塁で向かえた9回の攻撃はこれで終了。当然、試合も終了。
「あー」
ベンチから響く落胆の呟き。例え悪意はなくとも、その声は当事者の心を抉る。
(ちっ)
自分はこれで何度チームの好機を生かせなかったか……。打席の中で、長見はそれを数えることさえ億劫だった。
「彼は、いいものを持っているよ」
城南第二大学・軟式野球部・監督兼顧問の佐倉玲子の研究室にて、今日行われた練習試合の結果を色々論じ合っている中、直樹はこんなことを言った。
「でもあいつ、ヒット打ってないし、今日なんてさ……」
タイムリーエラーという、ありがたくないおまけつきである。
「あのエラーは仕方がないと思うよ。確かに捕れると思って前に出すぎたのは判断ミスかもしれないけれど、その姿勢は評価していい」
これは、亮の言葉だ。
「………」
しかし、晶は納得いかない表情である。なにしろ練習試合とはいえ、最近は勝ちきれない試合が多いからだ。その相手が、同じ1部リーグに所属しているということもあり、来季の前哨戦という意味合いも強く、その試合に勝てないことが晶としては面白くない。
対戦のスコアだけ見れば、3−2・2−0・1−1・2−2と、点は取られていない。手の内を見せないと言うこともあり、ストレートの速度はレベル1で抑えているから、さしもの晶もヒットは打たれている。それでも余分な得点を許さないのは、亮のリードと高い守備力がなせることだ。
しかし、点も取れてはいない。その原因は、クリーンアップを打つ亮や直樹がチャンスメイクの立場に回っているからだ。たとえ二人が出塁しても、打撃の弱い下位打線で流れは止まり、その悪い循環が得点力不足という今の事態を生んでいた。
1,2番の出塁率も、良くはない。
「斉木は、タイプ的に2番ですからね……」
彼は確かに器用な選手だが、足は速くない。やはりトップバッターは、俊足であることが好ましいところだ。
「ほんとうは、俺が1番を打つのがいいんだろうが」
直樹も、どちらかといえばアベレージヒッターであり、それなりに脚も速いから、1番打者としての適正が高い。だがそうなるとクリーンアップに穴ができてしまう。かといって、空いた4番に亮を据えても、穴ができるのは同じことだ。
「だから、あたしがクリーンアップ打つって言ってるのに……」
確かに晶の打撃力は二人に次ぐ。しかし、チームで唯一の投手である晶に負担をかけたくはないので、9番に固定しておきたいのが直樹と亮の総意であった。
「れい……監督は、なにか考えあります?」
直樹が思わず、亮や晶がいるにもかかわらずいつものように玲子を名前で呼ぼうとし、慌ててそれを修正しながら彼女に問いかけた。
「そうねえ…」
唇に指を添えて、少し考えこむ玲子。そして何かを思いついたのか、端末を打ち込んで空欄になっている1番の枠に“長見栄輔”の名を記入した。
「え、えぇ〜!」
これは晶の叫び。
「か、監督……」
さしもの直樹も、言葉を無くしている。
「あら、1番って、足が速いほうがいいんじゃないの?」
そして、チーム1の俊足は長見であった。彼の8割のベースランニングでさえ、部員たちは誰も敵わないほどに、その足は速い。