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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-244

「………」
 6回の裏、赤木に守備機会はなかった。身体中をがちがちに強張らせながら、センターの位置で固まっていた彼は、油の刺していない歯車のようにベンチに戻ってくる。
「赤木さん、そんなに固まってたら、ボールなんて追えないッスよ」
「な、長見!」
 そんな赤木を出迎えたのは、長見の軽口であった。
「長見君、大丈夫なのか?」
 亮が問う。
「ちょっと強く打っただけだ。テーピング、ぐるぐる巻きにしてもらったらすげぇ楽になった。折れたわけじゃねえみてえだから、とりあえず戻ってきたぜ」
「エイスケ!」
 泣きそうな悲鳴は、エレナのものである。医務室に運ばれた彼を、誰よりも追いかけていきたかったのは、他ならぬエレナだ。実際、そのようにしようとした彼女をグラウンドに戻したのは、痛みに苦しんでいるはずの長見で、最愛の人の言葉だからこそ従いはしたが、この回において、エレナの心はグラウンドにはなかった。
「栄輔……」
 晶も、心配そうに長見の側による。いつのまにか、彼を中心にして城二大は円陣を組む形になっていた。
「死人が生き返ったみたいに、見ないでくれ……っ」
 いてて、と長見が胸を抑える。エレナが慌てたように彼の背中をさすろうとするが、長見はそれをやんわりと辞退した。
「今は、俺のことよりも考えなきゃいけねえことがあるんじゃねえの?」
 長見はスコアボードに目をやる。1−2とリードを許したまま終盤の攻防に入ってきた決戦は、いよいよ正念場を迎えつつある。
「ここまで来て、負けなんてイヤだぜ」
「……長見の言う通りだ」
 直樹が、ベンチをたった。松葉杖をつきながら、輪の中心に体を置き、皆にそれぞれ視線を送る。
「相手の投手は、ストレートとフォークを巧みに使い分けている。だけど、フォークの落ちが少し、鈍くなっている気がする」
 横で試合を見続けている直樹の視線は、冷静なものだった。
「見極めは大事だが、思い切りも大事だぞ」
 勝負を速めに仕掛けて、相手のペースに乗らないようにしなければならない。1点差で終盤を迎えれば、さしもの櫻陽大も、守勢に気持ちが少しは廻るだろう。
「長見の頑張りに、応えたるワイ!」
 思いがけず試合に出たことで、少しうろたえ気味だった赤木だったが、長見の叱咤をその身に受けると、全身から見えてきそうなほどの炎を吹き上げて、闘志を剥き出しにした。

 ……とはいえ、下位打線ではさすがに櫻陽大のバッテリーには敵わない。新村、長谷川、上島と悉く凡退に切って取られ、7回の表は早々と終了した。
 続く7回の裏。打順は、3番の二ノ宮からだ。この試合では、二安打を打たれている。
「………」
 だが、マウンドに立つ晶には、気後れした様子は微塵もなかった。むしろ、圧倒的な威圧感を漂わせ、二ノ宮に対峙している。
(あの栄輔が、あんなに頑張ったんだから……)
 小さな頃からずっと、自分の背中に隠れてばかりいた気弱な幼なじみ。そんな彼が、ケガをしてまで貪欲に勝利を目指したのだ。
 その姿勢に燃えるものを感じなければ、エースの資格など無い。



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