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『STRIKE!!』
【スポーツ 官能小説】

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『STRIKE!!』(全9話)-239

 レベル2は、指のかけかたは1.5と同様だが、そこに手首のスナップをさらに強烈にすることで球威と球速を増加させたものだ。手首のしなりを最も生かせるリリースポイントまでボールを掴んでいなければならないため、レベル1や1.5よりもコントロールがつけにくい。しかし、スナップが加わったボールの回転数はそれまでの比ではなく、故にレベル2は晶のウイニングショット(決め球)となっている。
 それぞれのサインは、レベル1が人差し指、レベル1.5が小指、レベル2が人差し指と中指の二本だ。そして、今、亮が出したサインは……指がひとつも、伸びていない。握りこぶしのままだ。
 それが、意味するものはただひとつ。
 ざ、と晶の足がマウンドの土を削った。大きくしなる左腕、そして、鞭のように振られたその先から、亮のミットを目指してボールは放たれた。
「!?」
 レベル2のストレートにタイミングを合わせ、初動を始めた管弦楽。
(な、なんだ!?)
 しかし、思ったよりもボールがこない。と、いうよりも、完全にタイミングを誤っている。

 ブン……

「ストライク! ツー!!」
 鋭く繰り出されたスイングは、虚しくも空気を切り裂くだけにとどまった。
 今までお目にかかったことのない、威力のない球。失投かと思えばそうではなく、明らかな意図を持って投じられたものだということは、バッテリーの満足そうな様子から窺うことができる。
 腕の振りからは全く想像もできないほど緩いボールであった。
(チェンジアップとは)
 野球に精通している管弦楽は、すぐにそれとわかった。
 三球目、晶の体がしなる。管弦楽は、レベル2にタイミングを合わせてバットを構えた。
「くっ!」
 またしても、緩い球。タイミングを外された管弦楽はバランスを崩し、それでもなんとかボールを捉えようとした。

 ギン!

 芯を食わない打球が、小フライとなって三塁側のファウルゾーンに飛ぶ。誰もがファウルを思った瞬間、エレナがその打球に猪突していた。
「!」
 グラブを懸命に伸ばし、その打球を捕まえようとするエレナ。彼女の腕の長さが、このときは幸いした。
「アウト!」
 ボールは、グラブの先に“かろうじて”という感じで収まっていた。無理な体勢でボールを掴んだエレナは腹からグラウンドを滑ってしまったが、それを離すことはなく、審判はアウトをコールした。
「ナイス! エレナ!!」
 マウンドの晶が、喜色に輝く。
「THANKS」
 ようやく守備に貢献できたエレナは安心した様子で、土汚れにまみれたユニフォームもそのままに、ボールを晶に投げ返していた。
「ぬぅ……」
 一方で珍しくも唸っている管弦楽。完全に、近藤晶の新しい球種に翻弄されたこの打席は、自らの完敗を悟らなければならないだろう。
 彼は何も言わず、バットをキザに肩に乗せると、ひとつだけ息を大きく吐き出してから打席を離れていった。





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