オーディン第六話『下剋上』-1
情報センター化したコーヒーハウスでは今日も様々な情報が飛び交っている。
コーヒーハウスのドアが開くと、ボロボロの服をまとった男が入ってきた、彼はカウンター席に座った。
男は溜め息をつくと、一杯のコーヒーと労働者たちの読む、日曜新聞を頼んだ。
「今日も広告が多いな…」
ボロボロの男は広告をとばしながら新聞を捲ってゆく、しばらくすると新聞を捲る手が止まった。
「“政府に対し労働者たちが権利の主張を”か…」
「そうそう、最近労働者がうるさくてねえ、暴動が起きてる程だよ」
「またお前か断わるといったはずだ…、3度目だぞ」
ボロボロの男の隣りに、いつの間にか碧いマント姿の男が座っていた。
「生命、自由、財産の相互保全を行うには立法が必要不可欠、でもこれは金持ち優先の法律だ、財布を盗んだぐらいの経済犯罪で何でギロチンかねえ、そう思うだろ?“ペンの魔法使い”フォールディング」
碧いマントの男はボロボロの男にそう言った。
「久しぶりだなロック」
「フォールディング、面白い所に連れて行ってやるよ」
ボロボロ姿のフォールディングは机にコインを置くと、ロックの後について立ち上がった。それに気付いた店員は慌てて声を上げた。
「お客さん、銀貨2枚!!」
「そこに置いといた、釣りはいらない」
フォールディングはそう言うと、ロックと共にコーヒーハウスを出ていった。
店員が机に目をやると、そこには銀貨が2枚仲良く並んでいた。
バイクに乗った二人が白い建物の前で止まった。ロックがその建物を指差す。
「ここだ」
「ここは…」
フォールディングが建物の上の方に目をやると、そこにはこう書かれていた。
『精神病院』
建物の中からは笑い声が聞こえていた。
「ロック、悪いが俺は入らない」
「お前ならそう言うと思っていた、さっきコーヒーハウスで法律は金持ち優先だって言っただろ?この病院にいる患者たちは見せ物にされて、金持ちたちに笑われている、患者たちに自由があるんだろうか」
「ロック、少し前まで贅沢は良くないとされていた、だが贅沢をしたいという意欲は経済発展を招く物として、肯定されるようになった」
「金持ちのおかげでね」
「贅沢が良い物というのは否定しない、しかしこの病院は…」
「経済優先の考えを持った結果がこれだよ、弱者は排除される」
「政府は動かないだろうな」「動かないなら動かせばいい、今なら労働者たちを統率できる」
フォールディングは腕を組むとしばらく考え口を開いた。
「ロック…、ファインズを私の元へ連れて来てくれ、後この手紙をチャーチル夫人へ」
ロックは笑顔で頷くと、バイクに跨がり猛スピード走り去っていった。
「後は黒コートに悟られぬようにしなければ…」
フォールディングもバイクに跨がるとロックとは反対の方向へ走り去っていった。