ロボット進化論-1
「よし、できたぞ!」
A博士は目の前の物体を見つめ、両手を上げた。
それは限りなく「ヒト」に似ていて、外見だけではロボットだと誰も気づかない。
「早速スイッチを入れてみよう」
彼は背中のある部分を押し、人のような肌の蓋をした。
するとそのロボットはムクっと上半身を起こし、A博士を視界に捉えると、人のように微笑んだ。
「こんにちは、A博士」
「やった…やったぞ!」
ロボットとは思えない程流暢に音を発するのを聞いたA博士は、喜びのあまり飛び上がった。
「早速記者会見だ!」
そのロボットの完成はたちまち世間に広がった。
A博士はそのロボットを「ロゼ」と名付け、妻のようにいつも側に置いた。
直ぐに大量生産が行われ、人々はそれを求めた。
容姿や体系はプログラミングで好みに設定でき、やがて、世界中に広まった。
人々は、ロボットに仕事をさせようと次から次に買っていく。
そしていつしか仕事という仕事はロボットが担うようになった。
ロボットにプログラムをインプットすると、ミスなくこなしてくれる。 ロボットが稼いだ金は持ち主が得て、娯楽や贅沢に浪費された。
そしてロボットが普及してまもなく…。
その日A博士は友人と呑み屋を回り、泥酔して自宅に戻った。
妻も子どももいない、豪華な寂しいハコにまた身を収めるのだ。
昔はよかった。
自分好みの外見をしたロボット、ロゼが出迎えてくれることに、彼は胸をときめかせた。
彼女と生活することに、何も面倒はなかった。
妻のように身の回りの世話をしてくれるし、限りなく人間に近く出来上がったそれは、性行為さえやってのける。
子どもはさすがにできないが、不満を口にすることもない。
どこか物憂げな表情を浮かべ、A博士はドアを開いた。
「ん?」
どうしたことだろう。
いつもなら人の気配を感知し、玄関まで駆けつけてくれるロゼの姿が、その日は見受けられなかったのだ。
A博士は得体の知れぬ不安を感じながら、リビングへと早足に向かう。
「ロゼ?!」
彼はリビングに入るなり、そう叫んでいた。
「おかえりなさいませ」
ロゼはテーブルの上に置かれた料理を眺めながら、静かに座っていた。
「遅くなるなら連絡していただければよかったのに」
ロゼは口を尖らせた。
その振る舞いは、まさに妻そのものだ。
「何故だ…」
A博士は言葉を失った。
彼の独り言のような問いは、ロゼの言葉に対してではなく、指示なしに料理を作っていたことに対してだった。
そこに、無機質に光っていたテレビから、思いがけないニュースが飛び込む。
ロボットが人を殺めたというのだ。
「何と言うことだ」
A博士は頭を抱えた。
元を辿れば、ロボットを完成させたのはA博士だ。
しかし、暴走などするはずはない。
どんなに酷使したとしても、ロボットは疲れを知らない。
メンテナンスを怠っても、動きが悪くなる程度だ。
もしプログラムに落ち度があったのなら、ロゼは既に暴走し始めているに違いない。
つまり、世の中にいるロボットが人を殺すなど、有り得ないことなのだ。
「何故なんだ…」
一気に酔いのさめたA博士は、急いで現場へ向かった。
その後ろ姿を、ロゼはあざ笑うような顔で見ていたように見えた。