刃に心《第−1話・剣に誓った初恋〜後編》-8
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翌日、疾風達は帰っていった。
帰り際に再会と結婚の約束をして。
そして月日は流れ、楓は17になった。
「父上」
「おぉ、楓行くのか?」
「はい!」
あの頃に比べ、背も高くなった楓は傍らにデカい旅行鞄を置き、黒い胴着と袴、その上に白い羽織りを着ていた。
「そうか!よし、これは餞別であり、俺が持たせられる唯一の嫁入り道具だ」
榊は白塗の鞘に納まった居合刀を手渡した。
「銘は『東雲』。真っ直ぐで、お前に似た良い刀だ」
「ありがとうございます、父上!」
居合刀を受け取ると、楓は鞄を持った。
「では、行って参ります。父上、母上、今までお世話になりました」
楓は深々と頭を下げると踵を返し、家を後にした。
「疾風…やっと会える…♪」
腰に佩いたは誇りを示す居合刀。
手に持つは期待が詰まりし旅行鞄。
そして、胸に抱くはあの日のままの想い…
楓はそれらと共に旅立った。
「棗…」
「何です?あなた」
「ざびじぐだるだぁ…」
「あらあら…」
楓の背中が見えなくなったところで男泣きをする榊。その手を棗はそっと握った。
「そういえば、あなた…才蔵さんに知らせました?」
「あ…」
◆◇◆◇◆◇◆◇
───ブツッ。
テープが止まる。
同時に武慶と霞は楓の方を向いた。
楓はサッと視線を逸らし、合わそうとしない。
「なぁ、小鳥遊。いろいろと言いたいことがあるんだが…」
「うん…最後が榊さんの号泣で終わったこととか…ねえさんが結構、泣き虫だったとか…此所にきて初めて出てきた刀の名前とか…いろいろあるんだけど…」
楓の額からタラリと冷や汗が流れる。
「「キスシーンがありましたが…説明のほどを」」
さらに冷や汗が流れる。
「あ、あれはな…母上がな…ああすれば気持ちが伝わると言うのでな…それで…あの…若さ故というか…純粋だったというか…」
「まあ、つまり…やっちゃったと…」
「へ、変な言い方をするな!」
「この事は兄貴は覚えてるの?」
「さ、さあ…?」
じゃあ、呼びましょう。
どうぞ〜!
「な、何だこれ?」
「番外編にようこそ。突然だが、疾風。お前は小鳥遊の家から帰る前日を覚えてるか?」
「前日………」
記憶を再現中…
「前日…前日…ぜ」
「兄貴?」
「な、何かあったかな〜…そ、そうだ宿題やらないと…」
疾風は足早に退室していった。微かに顔が紅くなっていた。