刃に心《第−1話・剣に誓った初恋〜後編》-6
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疾風達が楓のところに来て間もなく2週間が経とうとしていた。
「疾風は何処におるのだ?」
楓が家の中を歩き回っている。外は闇が深まっており、楓の手には花火が握られていた。
小さな手持ち花火。
あの夜、母からの言葉を思いだす。
そして、自分でもう一度よく考えてみる。
結果はいつも同じだった。
「これなら、疾風も喜んでくれるだろう♪」
疾風の隣りにいたい。
一緒にいたい。
こんな小さな手持ち花火でも疾風と一緒なら楽しいものになる。
私は疾風が好きなのだ。
答えが変わることは無かった。
「ふふ♪」
笑みが零れる。
何だか心が暖かかった。
「ん?」
ある部屋の前で足が止まった。何やら話し声が聞こえてくる。
「何だ…話しておるのか…」
待たせてもらおうと壁に寄り掛かった。
僅かながらも話し声が耳にも届く。
「…疾風、明日には此所を発つからな」
不意に聞こえてしまった才蔵の言葉。
楓は思わず手に持った花火を落とした。
(疾風が…疾風が…帰ってしまう……)
楓は呆然と立ち尽くした。
最初から2週間だと言われていた。
しかし、この楽しく、幸せな時間は楓には永遠に続いてくれるように感じていた。
判っていた。
別れがくることぐらい判っていたはずなのに、今の楓にはその別れがとても辛かった。
(嫌…疾風と別れたくない!)
そう思って楓は自分の部屋に駆け込むと布団を頭から被って寝ようとした。そうすれば、先程のことは夢になってくれるような気がした。
(嫌…嫌…疾風と一緒にいたい…ずっと…一緒に…)
そう思っていると、足音が近付いてきた。部屋の前で止まる。
誰かは判っている。
「楓…入ってもいい?」
楓は答えなかった。
「…入るよ?」
障子がスーッと開いた。
楓は疾風に背を向けて布団にさらに深く潜り込んだ。
「楓…おれ…明日、帰るよ…」
疾風は言った。何処と無く寂しげな口調。
「この2週間…すごく楽しかった…楓と出会えて良かった」
楓は答えない。布団の中で胸を押さえ、声を殺して泣いていた。
「楓…ありがとう…」
疾風が立ち去ろうとする。
「ま、待ってくれ…」
楓は起き上がり、疾風の腕を掴んだ。