刃に心《第−1話・剣に誓った初恋〜後編》-5
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「楓、大事な話があるの。外に行かない?」
棗は部屋の隅にうずくまっている楓に優しく言った。
「大事な話…?」
楓はゆっくりと立ち上がり、棗の後について外に出た。
外は仄かな月明りに彩られ、風が木々の葉を揺らし、さわさわという音を奏でている。
棗と楓は家の外にある倒木に腰掛けた。
「楓。正直に答えてね。貴女は今どんな感じ?」
楓は少し顔を赤らめ、俯きながら口を開いた。
「苦しいのです…」
「苦しい?」
「はい…疾風が笑うとドキドキして…胸が締め付けられるようで…苦しくて…熱くなって…それで…何だか…恥ずかしくて…」
そんな娘に棗は優しく微笑みかけた。
「楓、疾風君は格好いい?」
楓は俯きながら顔を赤らめた。
そして、小さく
「はい…」
とだけ答えた。
「そう…じゃあ、楓は恋って知ってる?」
「聞いたことはありますが、あまりよく判りませぬ…」
楓はその意味を問うべく、ゆっくり顔をあげた。
「恋っていうのは、誰かを好きで好きで堪らなくなることなの」
「そ、そうなのですか…」
消え入りそうな声で楓は答えた。
「でも、やはりよく判りませぬ…」
「楓、疾風君は好き?」
「そ、それは…」
「じゃあ、言い方を変えましょう。貴女は疾風君とずっと一緒にいて仲良くしたい?」
「はい」
楓は迷わず答えた。
「他の男の子にそう思ったことは?」
「ありませぬ…」
「なら、貴女は多分疾風君が好きで恋してるのだと思うわ」
棗はそっと楓の肩を抱いた。そして、優しく髪を梳くように撫でる。
「後は…貴女が自分でそれをよく考えて、本当に疾風君が好きだって判断したのなら、その気持ちを大切にしなさい」
楓も母の身体に手を回した。母は暖かく、ふんわりとしていた。
「最後に…一緒にいたいって気持ちを伝えたい時にはこうするの♪」
棗は楓の耳を手で覆うと小さく呟いた。