刃に心《第−1話・剣に誓った初恋〜後編》-4
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その夜。
「楓、飯だぞ」
榊が呼び掛ける。だが、楓は障子で仕切られた隣りの部屋から出てこない。
「あ、後で食べます!」
楓が震えた声で返事をする。
「一体どうしたんだ?」
「疾風、喧嘩でもしたか?」
才蔵が問い掛ける。
「ううん…」
「じゃあ、今日は何かあったか?」
「今日は……森で遊んだ帰りに野犬の群れに出くわして…」
一つ一つ確認するように語りだした。
「…それで何とか撃退して…」
「ほぅ…楓を助けてくれたのか。ありがとな坊主」
「あ、はい…で、そしたら…何か…楓の顔が赤かった」
そう言うと、周りの大人達の顔がキョトンとしたものに変わった。
「それで、風邪かなって思って手を当てたら…楓、すごい速さで逃げちゃって……何か…おれ…悪いことしちゃったかな…?」
疾風は不安そうに傍らの父を見上げた。
「くっ…くくく…」
「ぷっ!ぶははははは!!」
「ふふふっ…♪」
その様子に大人達は破顔した。
「そうか!そうか!あの楓がな!そうか!ぶははははは!」
「我が息子ながらよくもまあ…♪」
「???」
疾風は頭上に?マークを幾つも浮かべながら首を傾げた。
「じゃあ…私はちょっと」
棗は立ち上がり、何処かに向かった。
「面白い!!才蔵、オメェも飲め!」
盃を才蔵に押しつけると、その中に日本酒をなみなみと注いでいく。
「お前、普通なら『娘はやらん!』とか怒らないか?」
「俺はそんな頭のかてぇ人間じゃねえよ♪それによぉ、この坊主には一目置いてんだ。オメェの息子ってこと抜きにしてもよ。なぁ坊主♪」
ますます、?が増える疾風だったが、榊と才蔵は酒を飲み干しながら上機嫌で笑っている。
「許婚なんでどうだ?」
「今のご時世にか?」
「忍者がそれを言うんじゃねえ♪」
「確かに。だが、コイツでいいのか?」
「ああ!言ったろ?俺はこの坊主を気に入ってるって」
榊は疾風に向き直った。
「なぁ、坊主。オメェは楓のこと好きか?」
そう問い掛けられた疾風は一瞬だけ考えた。しかし、結論は簡単に出た。
「好きです」
「そうか!そうか!」
その返答に榊は疾風の肩をバンバンと叩く。
「なら決定だ!」
疾風は肩を叩く痛みに顔をしかめる。頭にはまた?が一つ増えた。
「榊よ、コイツが言うのは男女としてじゃないぞ」
「気にすんな!好意があるなら友達からでも十分だろ?俺と棗もお友達からだ!ガハハハハ♪」
大人達のそんなやり取りを見ながら、疾風はしきりに首を傾げた。