投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

刃に心
【コメディ 恋愛小説】

刃に心の最初へ 刃に心 101 刃に心 103 刃に心の最後へ

刃に心《第−1話・剣に誓った初恋〜前編》-4

「だ、大丈夫………じゃなさそうだけど…大丈夫?」

楓はハッとしてグシグシと袖で涙を拭うと、キッと疾風を睨み付ける。

「い、言うでないぞ!絶対に!誰にも!言うでないぞ!」
「あ、ああ…」

楓の必死な表情に押され、疾風は首を縦に振った。

「そうだ」

何かを思い出し、疾風はゴソゴソと自分のポケットを漁る。
そこから取り出した物は小さな丸いケース入り塗り薬。

「母さんが持たせてくれたんだ。結構効くから」

蓋を開いて、中の薬を手に付ける。

「い、いい!大丈夫だ!」

楓は必死に首を振り抵抗する。

「大丈夫じゃなさそうだから。塗らないとみんなに言うよ?」
「う…」

観念し、大人しく気をつけの姿勢を取る。
疾風は指を楓の額に付け、そっと薬を塗った。

「ぁ…」

楓は一瞬、身震いしたものの、手をギュッと握り締めて治療が終わるのを待った。

「はい、終わり」

疾風の手が離れる。
楓はぼんやりとした表情でそれを見ていた。

「どう?痛くない?」
「えっ…あ…ああ。痛くない」
「良かった♪」

疾風は笑った。
その瞬間、楓に異変が起こった。初めての感覚だった。

「えっ…」

何が起こったのか、楓本人にも判らなかった。
ただ、強烈に心臓が軋み、顔が熱くなる。

「顔からいったからな…本当にびっくりしたよ」

疾風のそんな言葉が耳を通り抜ける。

(な、何なのだ?)

よく判らない。
痛い。額じゃなく別の所が。
とにかく、楓は自分を落ち着かせる為、疾風に背を向け、大きく深呼吸をしてみた。
そうすると痛み少し和らいだ。

「大丈夫?」

背後から疾風の声がした。

「あ、ああ…ありがとう」

楓は向き直ると素直に礼を言った。

「どういたしまして♪」

また、痛みが襲った。先程よりは弱かったが、はっきりと感じた。

「そ、そろそろ帰った方が良いな…」

楓は誤魔化すように落陽を見た。

「暗くなるとこの辺りには…」

突然、ガサガサと茂みから音がした。その奥から光る二つの眼。
獰猛な唸り声もする。
二人はビクッとなり、茂みを見る。
黒い影が二人の前に躍り出た。


刃に心の最初へ 刃に心 101 刃に心 103 刃に心の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前