刃に心《第−1話・剣に誓った初恋〜前編》-4
「だ、大丈夫………じゃなさそうだけど…大丈夫?」
楓はハッとしてグシグシと袖で涙を拭うと、キッと疾風を睨み付ける。
「い、言うでないぞ!絶対に!誰にも!言うでないぞ!」
「あ、ああ…」
楓の必死な表情に押され、疾風は首を縦に振った。
「そうだ」
何かを思い出し、疾風はゴソゴソと自分のポケットを漁る。
そこから取り出した物は小さな丸いケース入り塗り薬。
「母さんが持たせてくれたんだ。結構効くから」
蓋を開いて、中の薬を手に付ける。
「い、いい!大丈夫だ!」
楓は必死に首を振り抵抗する。
「大丈夫じゃなさそうだから。塗らないとみんなに言うよ?」
「う…」
観念し、大人しく気をつけの姿勢を取る。
疾風は指を楓の額に付け、そっと薬を塗った。
「ぁ…」
楓は一瞬、身震いしたものの、手をギュッと握り締めて治療が終わるのを待った。
「はい、終わり」
疾風の手が離れる。
楓はぼんやりとした表情でそれを見ていた。
「どう?痛くない?」
「えっ…あ…ああ。痛くない」
「良かった♪」
疾風は笑った。
その瞬間、楓に異変が起こった。初めての感覚だった。
「えっ…」
何が起こったのか、楓本人にも判らなかった。
ただ、強烈に心臓が軋み、顔が熱くなる。
「顔からいったからな…本当にびっくりしたよ」
疾風のそんな言葉が耳を通り抜ける。
(な、何なのだ?)
よく判らない。
痛い。額じゃなく別の所が。
とにかく、楓は自分を落ち着かせる為、疾風に背を向け、大きく深呼吸をしてみた。
そうすると痛み少し和らいだ。
「大丈夫?」
背後から疾風の声がした。
「あ、ああ…ありがとう」
楓は向き直ると素直に礼を言った。
「どういたしまして♪」
また、痛みが襲った。先程よりは弱かったが、はっきりと感じた。
「そ、そろそろ帰った方が良いな…」
楓は誤魔化すように落陽を見た。
「暗くなるとこの辺りには…」
突然、ガサガサと茂みから音がした。その奥から光る二つの眼。
獰猛な唸り声もする。
二人はビクッとなり、茂みを見る。
黒い影が二人の前に躍り出た。