刃に心《第−1話・剣に誓った初恋〜前編》-3
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「お前はいくつなのだ?」
森に入るとすぐに楓がそう尋ねた。
「7だよ」
「私と一緒か」
そう言うと楓はじろじろと疾風の姿を見る。
「な、何?」
「ふむ、父上は才蔵殿のことをすごい忍だと言ったおったのだが、その息子は何やら軟弱そうだな」
「ハハ…」
疾風は苦笑した。学校でも強そうだとは言われないが、軟弱だとここまでストレートに言われると笑うしかなかった。
「なあ、一勝負せぬか?」
「勝負?」
「そうだ。では行くぞ!てぇあぁ!!」
楓は瞬時に腰に差した木刀を抜いた。先程の榊の居合に比べると遅いが、7才という年齢を考慮すると目を見張るものである。
「うわっ!?」
疾風はバク転でそれを避ける。
「…やるな」
「い、いきなりはないだろう!」
「勝負にいきなりとかはない!」
「そうか…」
それにちょっとカチンときた疾風は懐から小さな竹筒を取り出した。
「じゃあ、おれも忍者流の闘い方をしようかな」
勢い良く手に持った竹筒を楓の足下に投げ付けた。ボワンと煙が辺りに立ち込める。
「ゲホッ…ゴホッ…」
疾風は手早く口許に覆面を巻くと、近くの木の上に登った。
「ひ、卑怯だぞ!ゴホッ…」
咳込みながら楓が叫ぶ。怒りのため、顔は真っ赤だった。
「隠れるなんて、貴様それでも男か!女から隠れるなんて恥ずかしくないのか!」
ブンブンと刀を振り回す楓。辺りに空を斬る音が響く。
一方疾風は…
「隠れるなって…隠れない忍者なんていないだろ…」
木の上で身を潜めながら、静かに呟いていた。
眼下には木刀を振り回す楓が見える。
「危ないな…あんな石ばっかりの所で木刀を振り回してると…」
「出てこーい!卑怯だぞー!」
「転びそう…」
そう言った途端、楓が転んだ。顔面から地面に叩き付けられ、そのまま動かない。
「だ、大丈夫?」
慌てて疾風が木の上から飛び下りた。楓に駆け寄ると手を取って立たせる。
「大丈夫?」
「…うぅ…」
擦りむいて赤くなった顔で涙を必死に堪える楓。