刃に心《第−1話・剣に誓った初恋〜前編》-2
◆◇◆◇◆◇◆◇
家の前では一人の男が左手に刀を、右手に太い薪を持って立っている。
肩幅は広く、腕は太い。傍目にも強いということが判る。
文字も男というよりは漢というほうが似合いそうだ。
その漢がパッと右手に持った薪を宙に投げた。
一瞬、右手がぶれる。
やがて重力に従い、薪は落ち、きれいに二つになった。
「相変わらずの腕だな、榊」
「おぉ!来たか才蔵!」
榊と呼ばれた漢が才蔵に気付き、嬉しそうに答える。
「おい、棗!楓!才蔵が来たぞ!」
そう家に呼び掛けるとガラッと玄関の扉が開いた。
中から出て来たのは凛々しい顔立ちの少女と優しそうな雰囲気の女性。
「お久し振りです」
ゆったりとした仕草で頭を下げる女性。
「こちらこそ久しぶりだな、棗」
「しのぶさんはお変わりありませんか?」
「ああ、相変わらず口五月蠅い」
「ふふっ♪」
口許に手を当て上品に微笑む。
「ほら、お前も挨拶しろ」
「初めまして、忍足疾風です。お世話になります」
疾風はぺこりと頭を下げた。
「おぉ!デカくなったな坊主!前見た時は豆つぶみたいだったのになぁ!」
榊はそう言ってガハハと豪快に笑う。
「貴女も挨拶なさい」
「はい」
少女が疾風に近付く。
「小鳥遊楓だ」
少女───楓はスッと右手を差し出した。
「よろしく頼む」
「こちらこそ、よろしく♪」
疾風は笑ってその手を握った。
「これから二週間世話になる」
「はい、何にもないところですけどゆっくりしていって下さい」
「才蔵、そんな堅苦しい挨拶はいいから酒だ酒!飲むだろ?」
「こっちも相変わらずだな♪」
「全く困ったものです。ほら、疾風君にこの辺を案内してあげなさい」
「はい、母上。行こう」
「うん」
疾風と楓が森の方へ向かって歩いていくのを見届けると、三人は家の中に入っていった。