―滲む世界―-1
あの小説は今どこに……。なんで書いたんだっけ……。
思い出した。
あの時の……あれか……。
今日、俺が呼び出された訳。うすうす俺は気付いていた。今、目の前の彼女は泣きそうな顔している。もうあれしかないな。
別れを告げるんだろ?
『あの……ね…。いろいろ考えたんだけど……。……。』
ついに泣き出したか。まずい俺も……。なんだよ俺。別れくらい泣かないでいてやりたいのに…。
『………別れよう。』
『………おう…。』
『じゃあ……ね。』
走り出す彼女。もう出会う事もないだろう。俺はそっと携帯を出し、彼女のメモリを消した。涙はまだ止まらない。
家に着いたら、電気もつけずにベットへと飛び込む。時計と外の車の音しか聞こえない世界。頭の中にはなにも入っていないけれど。ようやく少し落ち着き、電気をつけた。まだボーっとしてる頭を無理やり回転させ、今からすべき事を考える。
『………風呂入って寝よ……。』
大体いつも俺はこうだ。失恋するとなんにもする気がなくなる。どーでもよくなってしまう。
電気を消し、ベットに潜り込み必死に寝ようとする。けれど人間は複雑な生き物だ。
脳に焼き付いた彼女の言葉が俺を邪魔する。
『…………。』
―――今日さ!学校で――
『…………るせ。』
――明日遊ぼうよ――
『………うるせ。』
―――ずっと一緒――
『うるせーよ。』
小さな闇に響いた声は一瞬世界を止める。しかしすぐに時計は時を刻み、外のやかましい車の音も帰ってくる。そして闇の中にもう一つ。
『………っ………。』
やっぱり俺は泣いている。こんなに女々しい奴に愛想つかされてもしょうがないか。……彼女も泣いていた。……あんなに普段から強気で声がうるさくて……いじっぱりな彼女も……。
彼女でさえ泣いていた。
俺は小さな闇の中、声を上げ泣いた。ここだけ雨が降ったくらいに。ここだけ嵐でも来たのかのように。