刃に心《第13話・サイレントキラー〜無音の殺し屋》-5
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「刀摩」
暗がりから自分を呼び止める声がして『黒鵺刀摩』(クロヤトウマ)はナイフを飛ばした。
「…相変わらずだな」
「…貴様か」
忍者服姿の才蔵が先程のナイフを指で挟み、姿を見せる。
「…お前も結構な親バカだな。一人娘を殺しの世界から抜けさせる為にこんな大掛かりなことを」
「………」
刀摩は冷たい視線で才蔵を睨む。
「親子だからといって易々と一族から逃すことは出来ない。だから俺の息子を娘にぶつけた。
俺の息子はそれなりの力量があるがまだ甘い。だから、負けても勝っても両者は死なず、それなりの理由を付けて黒鵺との縁を切らせることができる…違うか?」
「ふん…戯言を…
…貴様の息子の首、裏でならかなりの値が付く。…それだけのことよ」
刀摩は才蔵を一瞥するとまた歩き出した。
足音はせず、姿は静かに闇に溶ける。
「…お前の妻も優しい女だったな」
才蔵は言った。すると、何処からともなく声がした。
「…戯言を」
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「う…う〜ん…」
疾風は重たい瞼を開いた。ぼんやりと白い天井が見える。横では点滴がポタリ、ポタリと落ちていく。
(…病院か…)
疾風は起き上がろうとした。しかし、身体があまり言うことを聞かない。
「あ、起きたんですねぇ!先生、起きましたよぉ!」
若い女の声がした。
多分、看護師だろう。
「大丈夫ですか?」
「あ…はい…」
まだ、靄がかかったようにぼんやりとしか見えないが、かなり若い看護師のようだ。
「汗をかいてますね。先生が来る前に着替えましょうか?」
「…はい…」
「あ、動かないで下さい。着替えは私がやりますから♪」
「すみません…」
「では、上を脱がしますね♪」
ボタンが少しずつ外されていく。
疾風はふと思った。
(アレ…この声…何処かで…)
「ふふっ♪疾風さんって意外に逞しいんですねぇ♪私ちょっと、ドキドキです♪」
艶やかな吐息が身体にかかる。疾風はパチパチと瞬いた。視界から靄がとれ、はっきりとなる。
そこには、ナース服姿の朧がいた。