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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第13話・サイレントキラー〜無音の殺し屋》-4

「…ならば、私が殺そう。…私がそやつを葬る。…貴様はその後だ」

小刀が巨大な剣の如く迫る。

「ふざ…けるな……」

疾風が木の幹を握り締めながらふらふらと立ち上がる。

「…立つか。…《風刃》の息子」
「…今の時代…人の生き方…なんてそれぞれだろう…」
「…ふん、綺麗事を吐かす。…我らはそうして生きてきた。…その生き方しか知らぬ。…黒鵺の血が流れる限りその生き方しか出来ぬ。
…だがそやつは殺しをしたくないなどと言う。…殺しとは我らにとって爪牙。…それ無くして生きてはいけず、生きたくば殺し、殺さねば生きられぬ。…野生の獣と同じだ。…他者を殺せぬ者は他者の糧となる。
…仮にもそやつは我が同胞。…食われるのを見るのは多少なりとも忍びない。…だから頭として食われぬように爪牙を研がせる。…せめてもの情けだ」

男の目は冷たかった。

「あんた…の…方が綺麗事だ…殺しの道しか知らない…なら…別の道を探せ…新しい道を作ればいいだけのことだろう!」

相手の力量が判らない訳ではない。むしろ、差がはっきりとし過ぎている分、恐怖をありありと感じていた。

「黒鵺が嫌がってるのが判らないのか!!」

だが、それにも関わらず疾風は叫んだ。ただ、無性に腹が立った。

「…言いたいことはそれで最後か?…小僧」

男が口を開いた。
殺気の密度が増す。疾風は思わず膝を折りそうになった。

「…死ね」

その時、刃梛枷が疾風を遮るように前に出た。

「…退かぬか」

刃梛枷は小さく首を横に振った。
瞬時に小さなナイフが刃梛枷の肩に刺さる。
少しだけよろめいたものの刃梛枷は倒れなかった。

「………」
「………」

しばらくの間、緊迫した睨み合いが続く。
周囲の気温が下がるような気がした。

「…興ざめだ」

男は小刀を納めた。

「…無抵抗の相手を嬲ってもつまらぬ」

男は背を向けた。刃梛枷の身体はまだ少し震えていた。

「…義絶だ。…勝手にせよ。…だが、二度と私の前に姿を見せるな」
「……父上…」

男の足が止まる。

「……今までありがとうございました…」

刃梛枷は深々と頭を下げた。

「…痴れ言を」

男はそう言い残すと闇に消えていった。
少しだけ、寂しそうな響きを残して。
その様子を見ながら疾風はズブズブと意識が沈んでいくのを感じた。

(…拙いな…霞に…バニラアイス…買ってこいって言われてたのに…)


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