刃に心《第13話・サイレントキラー〜無音の殺し屋》-3
「ぐぅぅ…」
「……諦めて…」
さらにそこに鮮やかな蹴りが一閃。
「ガハッ!」
傷口からドロリとしたものが流れる。
疾風はそのまま近くの木に叩き付けられた。
「……終わり…」
右手に握ったナイフを疾風の首筋に付けた。
「…そう……みたい…だな…」
息も絶え絶えになりながら疾風が答える。
自嘲の笑みが零れた。
「……最後に聞かせて欲しい…」
勝者の余裕だろうか?
刃梛枷は疾風に問い掛けた。
「……貴方ならもっと動けたはず………何故、本気じゃないの…?」
「…そりゃ…知り合いは……くっ…本気で殴れないよ…」
「……そう…」
「今更…じゃ…負け惜しみ…だけ…ど…」
「……もう一つ………貴方は何故、何度も私に構うの…?」
「……彼方に…頼まれたのもあるけど…」
疾風は苦しくなる肺を精一杯動かして言葉を紡いだ。
「……仲良く…したかった…からかな…」
刃梛枷はまた「そう」と小さく呟いた。
「……私との会話は楽しかった…?」
「…悪くはなかった」
軽く微笑みながら、疾風は目を閉じた。脇腹の痛みはすでに無くなっていた。力が抜けていく。
疾風は最期の時を待った。しかし、それは来なかった。首筋の冷たいナイフが離れていく。
疾風はゆっくりと目を開けた。映ったものは珍しく辛そうな顔をした刃梛枷だった。
「……私は…」
刃梛枷の腕が微かに震えていた。
静かにナイフが下りていく。
「……やっぱり、私には出来な───」
「…何をしている」
低く重い声が暗闇から響き、男が現れた。剃刀のような印象を与える鋭い顔立ちと目付き。
「……頭領…」
刃梛枷が声を震わせて言った。
「…私は殺せと命じたはずだ。…何故、殺らぬ?」
「……私は…」
「…貴様は暗殺を生業とする黒鵺の末裔。…殺しこそが生きる術、生きる道、生きる糧。
…その元に生まれた貴様はいつまで出来ぬなどとほざくつもりか?」
「……私は………殺したくない…」
「…戯言を吐かすな!」
唸るような低い怒声だった。殺気に満ち溢れ、常人ならば動けないだろう。
「…殺れ」
「……私は傷つきたくない…」
「…ならば殺れ。…傷つく前に」
「……私は傷つきたくない………だけど………だから、傷つけたくない…」
「…痴れ言を」
男は懐から小刀を取り出し、抜いた。
さらに空気が変わった。凍て付くような極寒の殺気。目を合わせることさえ辛かった。