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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第13話・サイレントキラー〜無音の殺し屋》-2

◆◇◆◇◆◇◆◇

疾風の通う日ノ土高校の裏には小さな林があった。森とまではいかないものの、木々の数は多く、周りに比べて闇は深い。
ゆっくりと闇の中へと歩を進めていった。
その林の中程まで行った時。

「…出て来い」

殺気を放ちながら、闇に向けて言った。
微かに感じる肌を焼くような殺気。疾風はその方向に昼間の投擲用のナイフを投げた。

「…返しておく」

冷たい視線を闇に向ける。すると、闇から抜け出たように人影が現れた。
相手は黒い服の上に迷彩のタクティカルベストを着ている。
そして、右手に鉈のような幅の広いナイフ、左手にはサバイバルナイフを握っていた。

「……侮っていた…」

闇で作られたような肩までの黒髪。
小柄な体躯。
朧気な月明りに照らされた白い肌にうっすらと先程のナイフで付いたと思われる赤い血の筋が目立つ。

「…黒鵺」
「……あまり驚かないのね…」

普段と変わらぬ声音。静かな空間ではよく聞こえた。

「…いや、結構驚いてる…」
「……そう…」
「…何故、俺を狙う?」

そう問い掛けると刃梛枷は静かに言った。

「……理由なんか無い………ただ命じられただけ…」

刃梛枷が左手を前に突き出した。反射的に疾風も身構える。

「……貴方を殺せと言われた………ただそれだけのこと…」

スッと、後ろに下がった。

「……これが私の生き方………《黒衣》黒鵺の生き方…」

そう言うと刃梛枷は闇に消えた。姿だけでなく足音、気配、殺気さえも…
疾風は一瞬、バレて諦めたのかと思った。
しかし、それは甘い見通しだったと思い知らされる。
左側から風を感じた。
本能レベルにまで刷り込まれた危機察知能力が身体を反射的に動かす。
刃梛枷の振るうナイフを紙一重で躱す。
刃梛枷は当たらなかったと判ると瞬時に闇に紛れた。
一撃離脱型。しかも、高度の隠密技術を持っている。
疾風としては非常にやりにくい相手だった。
一般人に見つかるのを恐れて林を選んだのだが、障害物の多い此所は刃梛枷にとって有利な地形のようだ。
今度は頭上から鉈のようなナイフが襲う。
疾風は転がるように避けながら、苦無を放った。刃梛枷は難無く躱すと再び闇へ…

「ッ…」

周りは闇ばかり。完全にそれと同化した刃梛枷が何処から来るのかを知ることは難しい。

「ホント…難易度高ぇな…」

疾風は苦笑した。
その瞬間に正面から縦に三つ、ナイフが飛んでくる。
疾風は懐から伸びる鎖付き匕首で弾いた。

「なっ!?」

疾風は驚愕した。
ナイフの柄には細いが丈夫そうな糸が結ばれており、それはまるで振り子のよう。

「しまっ───」
「……無駄…」

しまったと言い掛けた時、小さな声が背後からした。脇腹が切り裂かれる。


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