ギター弾きの失恋-1
ギターを弾く時は、大体気が向いた時だった。中学生の頃だろうか。父から教わったギターの素晴らしさは当時の俺にとって新鮮だった。一つのコードを覚えて弾く度に、なんともいえない充実感に浸っていた。
けれど時がたつにつれて…ギターと向きあう機会も少なくなってきた。けれど今日は違う。無性にギターを弾きたい。
『………あー…。』
―――なんでだよ!!
―――俺ら―――
今の時刻は午後8時。溜め息と共にさっきあった出来事の事を思い出していた。
『終わった……んだよな…。』
彼女と別れる事はつらい。確かにそう思っていた。よく友達とかに別れてもヘラヘラしているような奴がいるけれど……つらくないのだろうか?俺は「別れる」という事を甘くみていた。失ってから気付くというのは本当だったのか。
『………ん……。』
部屋の片隅にはギターが置いてあった。中学生の頃は夢中になっていたギターも今となっては一つの部屋の雰囲気を明るくするようなものになっていた。
少し埃を被ってしまったギターを手にとる。変わらない重量感。埃を掃ってやるとあの時の新鮮な気持ちが蘇ってくるようだった。必死になってコードを覚えたあの頃。必死になって歌ったあの頃。けれど今は忙しい日々に追われ……。
俺は変わってしまったのだろうか。
初めて弾いた、初めて歌ったあの曲を弾こう。あの頃の気持ちを…今の俺に聞かせてくれ。
『……うし。』
しっかりとギターを抱え、音を確かめる。一本一本が俺を懐かしんでくれるかのようにそれぞれの音を出した。よし大丈夫だ。
そして軽く腕を上げ、六本の弦達に振り下ろした。
―――♪
変わってないな、お前達。曲のイントロを丁寧に紡いでいく。出だしのフレーズはちゃんと声が出るだろうか?歌詞を覚えているだろうか?……間違ってもいいよな、これは単なる自己満足なんだから。
―――♪♪
……ちゃんと歌えているじゃねぇか俺…。けれど…この歌詞は……。……そうかこの曲は失恋の歌だった。
「出会った」 「さよなら」 「愛していた」
こんな歌詞が俺を締め付ける。
俺は目を閉じてみた。視覚を消し、耳を研ぎ澄ます。自分の声と、ギターの音色だけが暗闇の中を駆ける。あの頃感じていた気持ちはこんなものだったろうか?違う、必死で…無邪気で……何より新鮮さを感じる事が出来ていた。けれど今はどうなんだろう?確かにあの頃の…気持ちはないのかもしれない。けれど俺自身の中のどこかに、……どこかにあるんじゃないのだろうか……。