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堕天使と殺人鬼
【二次創作 その他小説】

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堕天使と殺人鬼--第2話---1

 その夜は真夏のように蒸し暑かった。もう秋だと言うのに。





オリジナル・バトル・ロワイアル

堕天使と殺人鬼 --第2話--
〜喜びの堕天使篇〜





 冷房のよく効いた涼しい部屋で、小柄で可憐な少女が鏡に向き合った形で座っている。腰まである色素の薄い長髪を、丁寧に櫛でとかしていた。
 鏡に映る少女のふっくらとした美しい口元は僅かに両端に釣り上がり、その大きな瞳は幸せそうに細められている。透き通るような真っ白な肌によく似合う桜色に、その頬はしっかりと色付いていた。まるで恋する乙女のように、無邪気に、そして嬉しげに少女は微笑んでいた。

 彼女――美吹ゆかり(茨城県月沢村立月沢中学校三年A組女子十六番)は丁寧にとかした長髪を耳の横で三つ編みにひとまとめすると、鏡の前から離れベッドに腰掛けた。
 彼女のすぐ隣に、なんの変哲もないノートが丁重に置かれている。ゆかりはそれを優しく労るように手に取ると、まるで包み込むように胸に抱き寄せた。この何処にでも売っているようなただのノートは、端からは、一見してなんの価値も見出だせるものではない。しかし優しげな微笑を浮かべている彼女にとっては、どうやら酷く大切な物であることが伺えた。
 それはそうだ。このノートは彼女の強い想いで隙間なく埋めつくされているのだ。苦しくて、切なくて、哀しくて、憎たらしくて、そしてなんだか愛しい。そんなたくさんの想いが入り混じったノートは、まさに彼女の『心』そのものだった。
 このノートに何かを書き終わった後、ゆかりは決まってこうする。彼女にとって、決して嬉しいとか幸せだとか感じることなどできない物なのに、そうすることが彼女の義務であるかのように感じられた。
 暫くしてゆかりはそれを胸から放すと、表紙の部分をジッと見つめる。まるで何かを、語りかけているようにすら見えた。

 新学期が始まって間もない九月の中旬、ゆかりが通う村立月沢中学校第三学年は明日から三泊四日の修学旅行が始まる。中学校生活最後の大イベント。この旅行が終われば本格的な受験が待っている三学年の生徒達にとってこのイベントは、最後の息抜きであり、また中学校生活最高の思い出を作るチャンスである為か、大半の生徒がとても楽しみにしているようだった。
 しかしゆかりは、特に楽しみにはしていなかった。寧ろ、行くことに苦痛さえ感じて休む気でいたのだが、担任に「どんな理由があってもこれが優先だ。校長からの堅い命令なんだ」と強制され、渋々行くことにした。
 何故そんなに強制するのか疑問に思っていたのだが、ほんの2週間ほど前に、ここ、大東亜共和国政府の有力権力者であるる父から聞かされた言葉に、ゆかりは全てを理解することになった。
 それはあまりにも過酷で残酷なことだったが、ゆかりはただ驚き唖然としただけで恐怖など全くと言って良いほど感じたりなどはしなかった。寧ろ支配したのは驚きや恐怖よりも、なんだかふわりふわりと浮遊してしまいそうになるほどの、幸福であった。

 願望が現実になると分かったゆかりは、一人冷酷な笑みを作る。恐怖心どころか、躊躇や迷いも全く持ち合わせていない。あるのは、ただうっとりしてしまうような喜びだけだ。
 明日こそ、自分が願っていたことが叶う。それは自分をここまで陥れたクラスメイト達とあの男への――。


 ああ、とにかく明日が待ち通しい……。





【残り】--三十八名--


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