ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-9
「あの子達なかなかいいセンいってるわよ。磨けばもっと光りそうだし…。特に香織ちゃんだっけ、あの子はこの業界でやっていけるわねぇ。ノリがいい割に礼儀もしっかりしてるしね」
とは、メイクの小谷さん(♂)の弁である。
どうやらメイクをしてる間に香織と意気投合してしまったらしいのだ。
ちなみに余談だが小谷さんの外見は本っ当にマッチョで一見ゲイの方に見える(本当にゲイとの噂もある)のだがその仕事の細やかさは一流との定評があり、小谷さんに太鼓判をもらったモデルの子のほとんどが一流のモデルになってるという恐ろしいくらい人を見る目がある御仁なのである。
小谷の発言に奈津子が「スカウトしちゃう?」と返していた。
ケイは冗談じゃない…と二人を睨み付けた。
「わかってんのかよ!? 俺、男なんだよ!? ただでさえ他のモデルの女の子達がたくさん居て隠すの大変なのに…朱鷺塚スカウトしたら学校にばれる恐れもあるんだからな!?」
小声で文句を言うと小谷は「冗談よぉ」と笑い、奈津子は「バレたらバレた時よ」と開き直っていた。
程なくして撮影が始まった。
が、やはりこの状況。
先程より笑顔がぎごちなくなる。
「ケイはやっぱりクールにきめるしかないかなぁ?」
カメラマンからため息が漏れた。
彼には今のケイの心境はわかってなかった。
文句を言われてもケイにはどうしようもないのだ。
「待ってください!」
その声にスタジオが一瞬静かになった。
香織が怖い顔をして律儀に手を挙げて発言していた。
「あたし達はケイを笑顔にするために手伝いで入ったんです。少し時間をください」
言い終わらない内に振り返ったかと思うと突然の出来事に唖然としていたケイの腕を引っ張った。
「ちょっと失礼」
そう言って一瞬だけ笑顔を見せると、香織はケイの脇腹目がけて手を伸ばした。
「ひゃっ!? ちょ、ちょっと香織ちゃん! やめっ、あはははははっ……」
香織にいきなり脇腹をくすぐられたケイは抵抗する間もなく身を悶えさせながら笑い始めた。
「ほらほらケイ、もっと肩の力を抜いてリラックスしよ。でも、ケイってば本当にウエスト細いなぁ」
いたずらっ子のような笑顔を見せながらケイに話しかける香織は楽しそうだったが、ケイにしてみれば返事をする余裕などまったくなかったのだった。
突然ケイをくすぐりだした香織の行動を香澄と智香はしばし呆然と眺めていたが、カメラマンの川上はそんな二人の様子をしっかり撮影していたのだった。
「川上、今のちゃんと撮った? 結構面白い絵だと思うんだけどね」
「使いどころは難しいですけどいいのが撮れましたよ土方さん」
ケイに抱きつく香織を見ながら奈津子と川上が話をしていると奈津子は一つの提案を出した。
「んー、それじゃあ今回は香織ちゃんにムードメーカーになってもらって撮影を進めようか」
「いいんじゃないですか。あの雰囲気の二人を見たら自分もそれでいいと思いましたよ。それにここの責任者は土方さんですし」
こうして撮影方針の修正がされて撮影の再開に向け、各々が動き始めたのだった。
撮影が再開されて二時間後─
俺は内心とても驚いていた。
奈津ねぇの指示で朱鷺塚にリードしてもらいながら撮影を再開したんだけど、朱鷺塚と一緒にいるだけなのにすっごく自然に笑顔が出てる自分が信じられなかった。
最初は嫌々ながら始めた仕事であったこととクールなイメージを要求されていたので微笑程度で今まではOKだったので今日みたいな仕事は本当に困っていたのだが、今回は朱鷺塚達に救われた。
でも、朱鷺塚ってこんな楽しそうな笑顔をするんだなぁ。
香織の感情をストレートに出した笑顔を見てそんなことをふと思ったら自分の香織に対する気持ちに一瞬違和感を感じたケイだった。
今は気付かないこの気持ちが後にやっかいなことになるとは今の圭介にはわかるはずもなかった。