ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-49
「まあ、このクラスで一番収穫があったのは榎本さんでしょうけどね」
「えっ! ええっ!?」
美弥の言葉に千晶は思わずうろたえた。
「私達が何も知らないとでも思ってるのかしら? すでにネタは上がっているのよ。2‐Aの確か……」
美弥が思い出そうとしていると横から声がかかった。
「東谷くん! 確か男バスの子だったはず」
千晶の秘密は既にここにいるメンバーには知られていたのだった。
もう2‐Cのメンバーはライブのことなどそっちのけで、千晶のことで盛り上がっていた。
こうしてライブの結果発表も終了し、各々がその場を離れていったのだった。
「ねえ、ケイ。そういえば昨日、一緒にいる時に話があるって言ったよね。あれってどんな話なの?」
廊下をケイと並んで歩く香織がそれとなく聞いてきたのに対してケイは言葉を選んでる様子であった。
「……うん、大事な話だから人のいるところじゃできないし…」
一人悩むケイに香織は黙って様子を見ていた。
「それじゃあ、いい場所知ってるから付き合ってくれない?」
そう言うと香織はケイの手を引いて歩き出したのだった。
香織がケイを連れてきたのは昨日、美弥に引っ張っられてきた音楽準備室であった。
まあ、あまり本意ではないが、時間をかけたくないと思った香織の選択である。
「ここなら邪魔も入らないしゆっくり話せるわね」
香織はドアの鍵をかけると手近にあったパイプ椅子を二つ引っ張り出した。
ケイは椅子に座ると神妙な顔をすると小さなため息をついた。
「…あのね、香織ちゃん。これから話すことはごく一部の……私の身内しか知らないことなの……」
思い詰めた表情のケイを見つめる香織は黙って頷くのだった。
それからしばらくの間、ケイは黙ってしまい重い空気が二人の間に漂った。
「……もう、これ以上は香織ちゃんを騙せないよ…」
そう言うとケイは自らカツラを取ったのだ。
「…………っっ!?」
それと同時に香織の表情が強張った。
ある程度の予測と疑念をもっていた香織だったが、やはり現実にそれを目の当たりにするとどうしても動揺は隠せなかった。
それは信じられない光景だった。
私が大好きで憧れていたケイが……。
しかも、身近にいた男の子だったなんて……。
あまりの出来事に愕然とする私だったが、それとは別にもう一つの感情があったのだ。
『…ケイが男の子でよかった……』
あまりにもケイを好きになっていくあたし自身、ひょっとしたら同性愛者じゃないかと勘繰ったくらいである。
しかし、その問題は回避されたので残るは今、目の前にいるあたしが気になっているもう一人の人についてだった。
「じゃあ、やっぱりこれって……」
そう呟いた香織は制服のポケットから携帯電話を取り出した。
それはとても辛い時間だった……。
俺が自分の意思でカツラを取り、ケイの正体を朱鷺塚に明かした時の彼女の表情は今まで見たことがないくらい複雑なものだった。
怒り?
悲しみ?
それとも落胆?
朱鷺塚の表情はどれにも当て嵌まらなかった。
彼女の気持ちがわからない今、俺はとても辛くそんな自分が情けなかった。
俺がそんなことを考えていると朱鷺塚は俺の目の前に携帯電話を差し出してきた。
それは見覚えがあるどころではなく間違いなく俺が昨日、失くした携帯だった。