ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-21
こうして未知との遭遇を果たした俺達は未だに倒れてる幸司を竜二が文句を言いつつズルズルと引っ張り、慎也は俺をエスコートするとか言い出したが朱鷺塚が邪魔をして俺の手を握るとさっさと歩き出し防音扉を開くと中に入っていった。
その時、俺はちらりと慎也の方を見るとヤレヤレといった感じで肩を竦めていた。
流石のイケメンも朱鷺塚の鉄壁のガードには勝てないのか…。
俺は男に言い寄られずに済んだことをちょっとだけ安心した。
その後、スタジオに入ってからは朱鷺塚の独壇場だった。
香織は気絶していた幸司を叩き起こし男連中に気合を入れ、そして予め持ってきていた数曲の楽譜から曲選択を行い楽器担当を決めるところまでとにかくパワフルに手腕を発揮したのだ。
その間、俺達はただ呆然としながらも朱鷺塚の指示に従った。
しかしケイである俺にはしっかり笑顔を見せながら可愛らしさをアピールされてしまい俺は不覚にもドキッとした。
そして普段見せないその可愛らしさに幸司や竜二、果ては慎也まで唖然とする始末であった。
こうして練習を開始して数日後、ケイ達とは別に奈津子は香織から聞いた選曲をもとにケイと香織の衣装を友美と一緒に選んでいた。
そんな感じで万事順調に物事が進んでいたある日、アクシデントは突然やってきたのだ。
事の発端は体育の授業中、ありふれたABクラス合同でのバスケの試合中に起こった。
ピピーッとホイッスルが体育館に響き、体育教師が竜二のところに駆け寄った。
圭介達も急いでそこに駆け寄ると竜二が苦痛に顔を歪めながら右手の指を押さえていたのだった。
どうやらゴールリング下での接触プレイで竜二がバランスを崩し不自然な形で倒れた際に指を痛めたらしいのだ。
体育教師が慌てて竜二に保健室に行くように促すと、意外なことに慎也がすぐ駆け寄り竜二を保健室に連れて行った。
男にはとことん冷たいことで有名な慎也の意外な行動に皆が呆気に取られてしまったが、彼にしてみれば竜二とは腐れ縁といえ小さな頃からの付き合いだからこその行動だったのだ。
しかし、慎也の気質を考えると竜二が心配だと思っていても、その心情を読み取れるような言葉や感情を表に出すことはなかったのである。
「バーカ、バスケの授業で熱くなってどうすんだよ」
「うっせ! お前みたいに女を口説いてばっかの奴にバスケの楽しさは永久に理解できないだろっ」
体育館を出て保健室に向かう途中、二人は憎まれ口を言い合っていた。
「それは心外だな。俺から女の子を口説くなんてことはそんなにないぞ。逆は結構あるがな」
竜二の言葉に慎也は小さなため息をつくと頭一個分低い竜二を見下ろして笑った。
「お前ってイヤな奴だよな……男の敵は腐るほどいるだろ」
竜二は慎也の顔を苦々しく見ると普段の慎也が女の子に対する様子を思い出していた。
しかし、竜二にとって女の子との恋愛の優先順位は決して高くはないので慎也のモテっぷりにはあまり興味がなく羨ましいとかの感情はなかった。
「あんた一体どーすんのよ!!」
右手の指に包帯を巻いて教室に戻ってきた竜二を香織は開口一番に怒鳴り付けた。
いきなりの香織の剣幕に竜二と慎也は唖然としてしまったのだ。
「いや、やっちまったもんはしょーがねーじゃんよ」
竜二が引きつった笑顔で香織に弁解にならない弁解を言うと香織はぷるぷると震えながら拳を握り締める。
「まあ、確かにこうなったからにはこれ以上言ってもしょうがないわよね…。早めに次の手を考えないといけないわ…」
香織の性格を考えるとここでキレるかとクラスのみんなが気が気でなかったが、意外なことに香織は冷静に対応したのだった。
「それじゃ、基本は東谷の線で行くけど最悪のケースを考えて代役を決めておきましょう」
香織はそう言うとテキパキと動き出しみんなも代役の人選に取り組みだした。
「で、お前の指の具合はどうなんだ? 折れてないだろうなぁ」
幸司が竜二の手を見ながら訊ねると竜二は「とりあえずつき指ですんだよ」と答え圭介達は安堵した。
しかし、つき指が治っても楽器が扱えるようになるのかという不安はまだ拭えないでいたのだ。