ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-2
「う、うん。奈津子お姉ちゃんのことだよね。そう言えば先週、加奈子ちゃん達と一緒にお茶したんだっけ」
智香は先週の日曜日に加奈子と香織の三人で富士見町へ買い物に行った時にたまたま従姉妹である奈津子と会い喫茶店でお茶とケーキをご馳走になっていて、その時に奈津子が自身の仕事について話していたことを思い出した。
「そうそう、あのかっこいいお姉さん。あの人に頼んでケイに会わせて貰うのって無理かなぁ? 若しくは撮影現場を見学させてもらうとか」
笑っていた香織が急に身を乗り出し楽しそうな顔で智香に聞いてきた。
「これこれ香織、無茶を言っちゃぁいけないよ。確かにケイには会ってみたいけど、それは無理ってもんでしょう。あ、でも、この間ご馳走になったラパンのシフォンケーキはまたご馳走になりたいかも…」
加奈子は笑いながら軽く香織を嗜めつつも加奈子も似たようなことを言っているのだった。
智香は「まあ、聞くだけ聞いてみるけど期待しないでね」と言いながら苦笑してしまっていた。
智香達が楽しそうにしてるのをよそに一人もくもくと弁当を食べる圭介を背後から両肩を掴みいきなり顔を寄せてきて楽しそうに圭介の弁当箱を覗き込み話しかけてくる男子生徒が現れた。
「おっ、相変わらず智香ちゃんのお弁当は美味しそうだねぇ。俺にも一口!」
圭介はうっとうしそうな顔で話しかけてくる男子生徒を振り払う。
「メシの邪魔すんなよ幸司。これは俺のメシだ! お前は自分のメシを食えっ!」
つれない奴だなぁ、と軽口を言いながら幸司は圭介の前の席の椅子に腰をかける。
「俺とお前の仲じゃないか、一口くらいくれても罰は当たらんぞ。それに、俺の弁当は二時限の時にすでになくなっているわっ!」
幸司はどうだと言わんばかりに胸を張り笑ってみせたが、その様子を見て圭介は呆れるしかなかった。
「お前、馬鹿だろ……それなら購買に行ってパンを買うなり学食に行って食べてくるなりしてこいよ」
もはや俺にはこいつの考えてることが理解できん。
一体なにがこいつを俺の弁当に執着させてるんだ?
「はっはっはっ、まだまだ甘いな圭介。俺はすでに学食できつねうどんを食ってきてるのだよ! 1年の頃からの付き合いの割にはわかってないな〜。俺は残念だぞ」
ホント…呆れた奴だよお前は…。
それだけ食べてもまだ足りないってのか?
頭が痛くなることこの上ないってのはこのことだな。
「いくら朝練があって腹が減るっていってもそりゃ異常だろ? お前、腹の中になんか変な生き物でも飼ってるんじゃないか。もぐ…」
圭介は幸司を相手にしつつも、箸を休めること無く呆れた顔で弁当を食べていく。
そんな圭介を見つつ幸司は隙あらば圭介の弁当のおかずを奪おうと様子を伺いつつ答える。
「いや、サッカー部はこれから大会があるじゃん。だから練習の方も気合が入っちゃってねぇ。お陰で授業中は眠いわ腹減るわで大変なんだよ」
そういや幸司ってレギュラーだったっけなぁ、なんてことを考えつつ圭介が箸を休めると急に弁当の前を幸司の手が横切りおかずの玉子焼きを奪っていった。
「隙ありっ! うん、うンまいっ!! さすが智香ちゃんの作った玉子焼きだ。甘さも程々で本当に絶妙だわっ! 智香ちゃん、今度俺にもお弁当作ってくれないかなぁ」
幸司は自分の後ろにいる智香達の方を向き邪気のない笑顔でお願いしていた。
急にそんなことを言われた智香としても「えっ! ええっ!?」と反応するしか出来なかったが、意外なところから明確かつ鋭いつっこみが返ってきた。
「うっさい中嶋! あんたみたいなバカに智香のお弁当は分不相応すぎるわよっ!! 大人しく購買のパンでも食べてなさい! それから相沢、中嶋にお弁当を分けてあげる必要はないからね」
いや、そんなつもりは毛頭ないんですがね…朱鷺塚さん……。
圭介が苦笑してる間、幸司は香織の言葉に反応しムカついたとばかりに席を立ち、香織に言い返した。
「朱鷺塚! 誰もお前になんかひとっことも聞いちゃいねえよっ! 俺は凶暴でガサツなお前ではなく、可愛くて優しい智香ちゃんに話しかけたんだよっ」
幸司の言葉に智香は顔が真っ赤になり俯いてしまう。そして、その暴言は許せんとばかりに眉を吊り上げた香織が席を立ち幸司の方に向かってズンズンと歩いてくる。