ケイと圭介の事情(リレー完全編集版)-11
そんなこんなであの撮影から一ヵ月後…。
あれから、比較的落ち着いた学園生活&私生活を送っていた俺だったが、今日のウチのクラスは少し雰囲気が違っていた。
その原因は学長の都合で延期になっていた学園祭開催の件がまず一つ。(考えてみたら自分も学園祭を楽しみたいが為に学園祭を延期をする学長も非常識だと思う)
そして二つ目は先月に朱鷺塚達と一緒に撮影をした雑誌が今日、発売されていてクラスの女子は朱鷺塚を中心に大騒ぎなのであった。
その頃、別のクラスでも圭介達のクラスと同じように女子生徒達がケイや香織達がモデルをした雑誌を見ながら会話の花を咲かせていたが、それとは別に教室の後ろの席で同じ雑誌を苦々しく見ている一人の女子生徒がいた。
彼女の名前は『藤崎美弥』といい、タレントとして有名な存在である。
全く面白くないわね。
ケイなんていうポッと出の無愛想な女だけでも忌々しいのに朱鷺塚姉妹まで出てくるなんて…。
彼女にしてみればケイはあまり接点がないだけにまだ見過ごせていたが、朱鷺塚姉妹の場合は同じ学園に通っているだけあって心中穏やかではなかった。
特に朱鷺塚香織とは相性が悪いらしく過去に何度も衝突もしてるので今回の雑誌の件で香織が話題の中心になることが美弥の不機嫌さを殊更に加速させたのであった。
そんな美弥の思いを知る由もなく圭介達のクラスは今日も騒がしい一日を過ごし、あっ! という間に今日の授業を終えLHRの時間になっていた。
「おーい! それじゃあ、これから学園祭の出し物について協議を行うぞーっ!」
いつの間にかクラスの実行委員になっていた幸司が大声でみんなに呼びかけた。
「ちなみに学長から提供される今年の学園祭での投票による最優秀出店クラスの賞品だが…学食の全メニュー一ヶ月間無料チケットだ!!」
「おおーっ!! さすが学長!」とクラスのみんなから感嘆の声が上がりみんなの気合が入る。
そりゃ気合も入りはする。
なにせウチの学園の学食は下手なファミレスよりも美味しいことで有名なんだからなぁ。
そして、今年も生徒達の期待を裏切らなかった学長からの賞品に盛り上がってる教室に一人の男子生徒が駆け込んできた。
「中嶋っ! 大変だ! 2‐Cの奴らとんでもない企画を立ててきやがった!!」
「どうしたんだ? 2‐Aきっての諜報部員への一号。ちゃんと落ち着いて報告しろ」
「への一号って……まあそれはいい。そんなことより2‐Cの奴ら自分達のクラスに藤崎美弥がいるのをいいことに彼女を使って勝負に出てきたぞ!」
幸司に『への一号』と呼ばれた男子生徒(名前は三枝である。一応彼の名誉の為に注釈しておく)は息を切らしながら幸司に詰め寄った。
「中嶋、こちらも真剣に相応の対抗手段を練らないとマジで今年の学園祭はヤバいぞっ」
「あいつら…芸能人を引っ張り出してまで勝ちにきたか……」
普段、授業の時にはまず見せない真剣な表情で腕を組み幸司は考え込んでしまった。
「よしっ、俺等が女装するなんてどうだ?」
はぁ!? こいつはいきなり何を言い出すんだ!
俺は心臓が止まるくらいの驚きと動揺に頭がクラクラしてきた。
突然バカなことを言い出した幸司に猛然と反論したのはやはり香織だった。
「中嶋、あんたバカ! 今度の学園祭を勝つのにそんな程度の低いアイデアでどうすんのよ!!」
いやぁ、朱鷺塚は激しく怒っていらっしゃる…。
それもそのはず、香織は勝負事が好きな上に今回の相手は藤崎が絡んでるから真剣そのものなのだ。
「向こうは芸能人を使ってくるのにあんた等が女装したところで勝ち目なんてある訳ないでしょ!」
両手で机をバンッと叩き幸司を睨みつける香織。
いや、その目はマジ怖いですよ…。
「じゃあ、朱鷺塚は何かアイデアあるのかよ!」
香織の睨みに怯むこと無く教卓から身を乗り出し香織と睨み合う幸司。
本当にこいつは大物だね。うん、マジ感心するよ。
「だ、だからそれを今から考えるんでしょ」
香織もまだ有効策を思いついてはいないらしく珍しく歯切れが悪かったが、しかし代案は意外なところから出てきたのだった。
それも最悪の形で…。
「そう言えば香織ってケイと仲良くなったんだよね。そのツテで彼女を学園祭に呼べないの?」
なんと、トンデモ発言をしてくれたのは朱鷺塚と智香の友人でもある柊加奈子嬢である。
「そうかっ!! その手があったわね。奈津子さんに相談してみる価値はあるかもっ! サンキュ加奈子」
そう言うと香織は鞄から携帯を取り出し「ちょっと待ってて」と言って廊下へ出て行ったのだ。
ヤバい! とてつもなくヤバい!!
奈津ねぇのことだから間違いなく二つ返事でOKを出すだろう。
そして、クラスの女子は期待に眼を輝かせながらキャアキャアとはしゃいでいた。