友愛-1
「邪魔だ」
そう言ってシルバーのネックレスを引きちぎる姿はとても野蛮で美しかった。あお向けになっているあたしの上に、今までの経験を物語るように不健康で華奢な肉体が見える。どうしてその身体にあたしを限界に追い詰めるような力があるのか不思議でならない。
一年前、友達に誘われて夜の街に足を踏み入れた。正直以前からホストクラブには興味があったし、そういう世界の人々の生き方を覗いてみたかった。
巷で有名なお店に入り、直感でなんとなく指名したのが君だった。当時は別に見掛けも話術も飛び抜けてはいなかったし、端から見ればいたって普通の男だった。けれど不思議な縁を感じたあたしは、それからたまに連絡を取るようになり、一緒に食事をしたり遊びに行くようになった。
全く違う世界で生きてきた君の話は聞いていて飽きることがなかった。一般の人々は風俗で働く人間をどうして差別するのだろう。ただなんとなく会社に勤める夢のないサラリーマンやOLなんかよりも、皆よっぽど真っ当に生きているのに。
ただ住む世界が違いすぎて恋愛感情が生まれることはなかったが、自らを犠牲にしながら夢を追い続け、忙しいながらもあたしの悩みも親身に聞いてくれた彼は、いつしかかけがえのない存在になっていた。
一度果てた君がなんだか壊れてしまいそうに見えて、そっと抱きしめた。香水と煙草の香りが鼻をくすぐる。
いつも強がって無理ばかりしてきたその身体と心を全部守ってあげたかった。かつてあたしが支えられたように。
少ししてから首筋に幾度も微かな電流が走り、次第にそれは胸元へと移動した。
「…っ、んっ」
両胸の中央の赤く充血した突起を舐められる度にため息と声が入り混じる。もっと舐めて。さっき結合したばかりの部分が熱く潤うのがわかった。そこへすかさず綺麗な手が伸びる。
「あんっ…」
「もう濡れてる」
「うるさい」
顔を背けたあたしの頬に君がキスをした。そして愛液を塗りたくるように入り口ともうひとつの突起を指で往復する。しばらくしてその指があたしの中に埋まり、同時に激しく上下に動いた。
「あっ、あっ、やだ…やめて、だめ…あんっ」
否定の言葉を口にするほど動きはより一層激しくなる。ぴちゃぴちゃと卑猥な音が自分の耳にもはっきり聞こえた。
「次はあたしの番だよ」
吐息混じりにやっとの思いでそう言って、あたしは彼の下腹部へポジションを変えた。裏筋を這うように舐め上げ、先端を吸い上げ、体型に似つかわしくない大きさのそれを夢中でしゃぶった。この後にこれで繋がるんだと思うと、あたしの秘部は疼いて収縮し、何もされていなくても潤みを帯びた。取り付かれたように舐めていたけど、その間彼の口から吐息が漏れているのを聞き逃さなかった。あたしで感じてくれているのがすごく嬉しい。時折優しく髪を撫でられると、胸がきゅんとなった。
「入れたい」
再びあたしをあお向けにして両脚を持ち上げ、秘部に先端を塗り付けるように少しじらしてから、君があたしの胎内をいっぱいにした。君はいつも初めから荒々しく突いてくる。快楽とも苦痛とも取れる抱き方。
「んっ、あっ、あっ、あっ、あんっ」
幾度となく体勢を変えては追い詰めてくる。恥じらう余裕もない。あたしは本能のままに顔を歪め、声を上げた。
「気持ちいい?」
「うん、気持ちい…あんっ、あっ」
パンパン、ぐちゃぐちゃと音が折り重なって聞こえる。人間が交わるとこんなにも大きな音が出るのか。
「あぁ、もう出そう」
「いいよ…」
速度を増しててますます激しく奥底を突かれた。あたしは必死にその身体に絡み付き、油断すると自分が砕けてしまいそうなほどの攻めに耐えた。
「あっ、あっ、あっ、あっ、あっ!!」
「イクっ…!!」
ドクドクと白濁液があふれた。
余韻に浸りながらベッドの中で天井を見つめる。あたしたち、いつまでこうしていられるんだろ。あたしはこれをただの友情だとは思っていない。恋愛感情でもない。気がついたら店一番の売れっ子になっていて、何百人の女を抱いたかもわからない君を、人として尊敬し、愛している。
ふと横を見ると、君ももの思いに耽っていた。何を考えているんだろう。君にとってあたしはどういう存在なんだろう。
無言のまま、二人は眠りに落ちた。