刃に心《第12話・サイレントトランスファー〜無口な転校生》-8
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「何か…五月蠅いな…」
疾風の独り言を気にすること無く、刃梛枷は鞄からコンビニの袋を取り出した。中身を机の上に広げる。
アンパンが一つに牛乳が一つ。以上。
毎日、これだった。
「いつも思うんだけど、それだけで腹減らない?」
「……減らない…」
「俺だったら、もう2、3個欲しいところだな」
「……貴方と私は違う…」
「まあ、それを言ってしまえば終わりだけど…」
「………」
刃梛枷は無言でアンパンの包みを開いた。中からパン本体を取り出し、小さくちぎっては口に運ぶ。
「…アンパンって言えば、あのヒーローって頭が本体なのか、身体が本体なのかどっちだと思う?」
苦し紛れのアン○ンマン談義。
刃梛枷は手を止めて、疾風を見た。その顔は何処と無くキョトンとしていた。
「…えっと…知らない?アンパ○マン」
「……知らない…」
結構、世間知らずのお嬢様だったりして…
疾風がそう思っていると、刃梛枷は僅かに顔を伏せた。
「……私に教えられたことは一つだけ…」
そして、またア○パンマンじゃなくて、アンパンをちぎり始めた。
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「さて帰るか…」
夕焼けが窓から差し込み、教室を赤く染め上げる。疾風はこの日提出の宿題を仕上げていた。
楓は希早紀に誘われて近くのケーキ屋に行っている。
疾風は身体を伸ばすと鞄を持ち、教室を出た。
廊下も教室と同じくオレンジの光で色付いている。
純粋に綺麗だなと思った。
「癒される…最近は事故っていうか、不幸が多いからな…厄年が早めに来たのかな…?」
くだらないことを言うと、疾風は反射的に自分の鞄で顔を覆った。
トスッと何かが刺さる音がした。
一旦、鞄を捨てると疾風は振り返って身構えた。前髪と眼鏡に隠された瞳が鋭く光る。
廊下の先の角を見つめる。何も出てこない。先程、僅かに感じた殺気もない。
相手は去ったのだろうと思い、ゆっくりと構えた腕を下ろすと、鞄に刺さったものを引き抜いた。
細身だが、鋭利な投擲用のナイフが疾風の頭の代わりに鞄を穿っていた。
「…厄介事は好きじゃないんだけどな」
疾風は小さく呟き、ナイフを鞄にしまった。
続く…