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刃に心
【コメディ 恋愛小説】

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刃に心《第12話・サイレントトランスファー〜無口な転校生》-5

◆◇◆◇◆◇◆◇

「と、いう訳で刃梛枷ちゃんを昼飯に誘おうと思います!」

昼休みになり、彼方が叫ぶ。いつものメンバーは周りの机を適当にくっつけて弁当を食べようとしている。

「じゃんけんで負けた奴が話しかけるということで!」
「勝手に進めんな!」
「いいだろ?とにかく仲良くならなきゃ!友情パワーだろ!
はい、いきます。最初はグー、じゃあんけえん…ぽん!」

強引にじゃんけんがスタート。渋々ながら、全員が出した。

「お、俺!?」

疾風がピース状態の手で言った。他の者は全員が握り拳を作っている。

「…仕方無い…」

彼方の真剣な瞳に後押しされて疾風は刃梛枷の元へと向かった。

◆◇◆◇◆◇◆◇

(…とは言っても、どうしたら…)

疾風は悩んでいた。
ストレートを内角低めに投げ込むべきか…
それとも、切れ味鋭い変化球で外角を攻めるべきか…
まさか、自分が負けるとは思っていなかったので話題なんか考えていない。

「…あのさ」

とりあえず、一球目は様子見として話しかけてみることに。
読んでいた本から視線を外し、ゆっくりと顔を上げる刃梛枷。

「…!」

その顔が一瞬強張ったように疾風には見えた。

「……何…?」

刃梛枷が静かに口を開いた。抑揚がなく感情の籠らない声だった。

「昼飯一緒にどうかな〜って思ってさ」

じっと黒瞳が疾風を捕らえる。深く底の見えない瞳。

「……いい…」

数秒後、刃梛枷は言った。

「それは肯定?それとも否定?」

仲間の期待(主に彼方)を背負っている疾風もそうスゴスゴと引き下がれない。

「……否定…」

小さいが、はっきりとした言葉。
まあ、疾風としても結果は判っていたのでそんなにショックは無い。

「まあ、こっちは何時でも大歓迎だから。特に約一名が…」

返事は返ってこなかった。刃梛枷はまた本に視線を向けた。
疾風は困ったように仲間を見た。彼方の両手がみょーん、みょーんと何かを摘み、伸ばすように水平に動く。
引き伸ばせ、諦めんな。
彼方の目が物語っている。
はぁ…と疾風は心の中で溜め息を吐いた。

「なぁ、その本って面白い?」
「……面白くない…」

刃梛枷は本に目を向けたまま言った。

「何で面白くない本を読んでるの?」
「……時間潰し…」
「俺の友達って言うか、此所の委員長かなり本を読んでるから良かったら何かオススメを聞いておこうか?」
「……いい…」
「それは肯「……否定…」

静かに言われた。
天丼失敗。そろそろ鬱陶しく思ったのか、ほのかに殺気も感じる。
ようやく感情の片鱗が見えた。怒りだが…


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