詩を風にのせて 〜第1話 始まり〜-1
―キィィィン―
剣と剣のぶつかる音がする。
それと同時に剣を振る者たちの息の切れた音もする。
一人は180cmくらいだろう背丈に割とがっちりとした体格で髪は黒く短めの青年。村で馴染みの服を着ている。服が多少汚れていることから活発な印象を受ける。笑えば爽やかそうな笑顔が見られそうだ。
もう一人の青年は身長175cmでほっそりとしており、栗色の少し長めの髪が印象的だ。村の者にしては少しこぎれいな服を着ている。整った顔をしていて、いわゆる美青年だ。
がっちりとした体格の青年が細身の青年を力で倒し、首もとに剣をあてた。
「まいったよ、やっぱりユキには勝てないなぁ」
細身の青年が言う。それに対してユキと呼ばれた青年が答える。
「まぁな。俺は父さんみたいに凄腕の剣士になりたいんだから人一倍頑張ってるんだよ」
「お前の父さんは有名な剣士なんだったっけ?そのわりには名前を聞かないけど」
「ああ、俺もじいちゃんから聞いただけで実際はよくわからないんだけどな」
そんな他愛のない会話をし、二人は笑いあう。
そこにこちらに向かって肩まである黒茶色の髪を揺らし走ってくる少女が見えた。体が細く、ユキが少しでも力を入れれば折れてしまいそうなくらい華奢だ。
「ユキー!レオー!」
はぁはぁと息を切らし、少女が二人にタオルと飲み物を渡す。
「はい。今日はもう終わりするの?」
レオが答える。
「そうだな、今日はもう終わりにするよ。聞いてくれよ、サクラ。今日もこいつに負けちゃったんだ」
「そりゃそうよ、ユキは村で一番強いんだもの」
ユキはレオとサクラのことを見ていた。
ユキ、レオ、サクラは幼馴染みであった。ユキとレオ17歳、サクラは15歳で歳も近かったため小さい頃から仲良くしていたのだが、最近は男女の壁を感じつつある。
レオがサクラに恋愛感情を持っているからだ。サクラもレオに恋愛感情を持ち始めているような気もする。
ユキは二人がこうして会話している姿を見て、自分が入る隙はないと思っている。だからこの感情は自分の胸だけに秘めていよう、と。
3人がいつまでもこうした日々を送れることをユキは望んでいた。
ユキの暮らす村は特に何もない静かなところだ。豊かでもないが貧しくもない。ユキはそんな村が好きであった。
ユキの父親は世界でも有名な剣士で、母親は少しは名の知れた魔術師であると祖父母から聞いている。両親はユキが小さい頃に離婚しており、ユキは父親に引き取られた。しかし父親と暮らしたことはなく父方の祖父母に育てられた。父親は世界中を旅しているらしい。
両親についてはほんのかすかな記憶しかなかった。
父親の右頬の傷、母親の左手のよくわからない紋章、両親の顔もはっきりとは思い出せない。
その日の晩、ユキは床につこうとした時、外が騒がしいことに気付いた。
今は…23時だ。こんな時間に騒がしいのはおかしい。何かあったのか?
そう思い、素早く動きやすい服に着替え父親の残したマントを羽織り、腰に剣を差し、家を出る。
騒ぎのあるほうへと走っていくと、ユキは今までに見たことのないものを目の当たりにした。
ユキが見たもの、それは――ゾンビの群れであった。
本で読んだことはある。だが、それが何故こんな平和な村に、しかも大量にいるのかがわからなかい。
ユキはこれが夢であってほしいと思った。何の前触れもなく…ユキは唇を噛み締める。