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夢の雫
【ファンタジー 恋愛小説】

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夢の雫-1

一番窓際の一番後ろの席。僕、神山裕介は遮るもののない冬の青空を眺めていた。
今日は小春日和、僕を眠りに誘うには充分な陽気だった。
ごく自然にあくびが漏れる。特に隠そうともせず、僕は鞄の中へ入っている枕を取り出した。
愛用品だ。無人島に何持ってくと聞かれたら迷わず、この枕と答えるだろう。
それほどまでに思い入れがあり、何よりも寝心地が最高なのだ。
いつも通り枕を肘の下に敷き、寝る準備を整える。
それにしても退屈だ。
僕の毎日には張りと言うものがない、ただ時の流れに何もせず身をまかせているだけであった。
何か、胸踊るような出来事が起こりはしないか。
そんな馬鹿なことを考えながら、僕はまどろみの中へと沈んでいった。

「おい、神山!」
聞き慣れた声。
彼の友人、重田剛の声であった。
「おはよう」
神山はムクリと顔をあげ、重田へ目を向けた。
重田の筋骨隆々とした逞しい体が嫌が応でも飛び込んでくる。
彼は中学時代、全国大会でもその名前を知らない人はいないほどの剣道少年であった。
だからこそのこの体、辞めた今でもこれはあまり変わらないのだ。
「もう昼か、早いもんだね」
そう言って、神山はうーんと伸びをする。
よく寝たからか、とても体が軽く感じる。
「何を寝ぼけてんだ?もう放課後だぞ」
「何?」
そんな馬鹿な。自分は昼を抜いてしまっていたのか、そういえば腹が減っているなと
ぼんやりと神山は思った。
「どうして起こしてくれなかったのさ」
「起こしたぞ、でも死んだように眠ってたんだ」
「死んだようにね」
たしかにその間の記憶がまったくないのは事実だった。
それにしても昼時にも起きないとは異常だ。
僅かな恐怖を神山は感じた。
「どうする?今日もゲーセン行くか?」
そんな恐怖に浸る間もなく、重田が言った。
「どうせ僕らはそんなとこしか行くとこないよ」
「それもそうか」
重田はニッと笑うと鞄を肩に背負った。
いったい何がおかしいのか。神山にはわからなかった。


神山は重田と一緒に大通りを歩いていた。
すっかり暗くなってはいたが、まだ午後六時である。
雪の降らないこの町では、冬を感じるものと言ったら肌寒さとこの日の短さくらいのものだ。
だからだろうか、そんな些細なことを神山は敏感に感じてしまうのだった。
「今日未明、変死体が発見されました。身元のー」
「最近多いな」
家電用品店の店先に並ぶテレビに青いビニールシートに覆われる殺人現場が映ってい
る。
ここ何日か連続して同じような事件が起こっていた。しかも神山や重田の通う学校と同じ市内でだ。
「まったく物騒な世の中だね」
ついつい神山は立ち止まり、店先のテレビに見入ってしまう。
彼にとってその事件はなかなか興味深いものだった。
それは未知の者に対する好奇心は彼の退屈を少し和らげてくれるからだ。
「気になるね」
「でもよ、この事件」
そこで言葉を区切り、重田は眉をひそめた。
「今回の事件も過去5件の事件と同じように目立った外傷は無くーー」
画面の中のアナウンサーも重田と同じように眉をひそめる。
目立った外傷のない死体、これが今回の事件の恐ろしいところであった。


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