『――ガシャン』-1
ここは超高層マンション。俺は今、屋上でこの世界からおさらばするために…一歩踏み出そうとしていた。
『たっけー……。』
理由なんていろんな事がある…。1番の理由は……。
『――ヒュッ』
俺は飛び降りた。重力に任せて。その時一つ思い出した。少年時代の頃だ。
俺がまだ少年の頃、親父は家族に優しく仕事も完璧にこなすような人だった。
あの頃の親父は輝いていて…あんな風になりたい、とも思っていた。
けれど。
その日親父が仕事から帰ってきた時、なんだかいつもと違っていた。
夜、自分の部屋で寝ていると階下のリビングから声が聞こえる。
――リストラされたの!?
――あぁ、そーだよ!!
――これからどーするのよ!!
リストラ。親父はリストラされたらしい。いつも俺は仕事を完璧にこなしている親父だったのに…リストラ??これからどうなるんだろう……今までの暮らしはどうなるんだろう??
今の社会は…俺の想像を越える嫌な奴だと知った。
―――風を切る音が聞こえる。そうさっきのは一瞬。一瞬思い出しただけ…。今あんな事を思い出しても切なくなるだけだ…。
飛び降り自殺は今まで体験してきたもの中で1番怖い。
ジェットコースターより怖く。
新幹線より速い気がした。
俺が飛び降りてからニ秒くらいだろうか。動きが思うようにとれない俺は正面のビルの窓に俺が写し出されていた。
鏡のように俺を写し出すビルの窓には…今のぶざまな俺がいた。
また一つ思い出した。
『――ガシャン』
―――また親父達は喧嘩している。……自分の部屋にこもり俺は当たり前のように思った。
親父がリストラされてから親父は変わってしまった。…家庭内暴力なんて当たり前。家に居ず、いつもフラフラしていた。親父は何を考えていたんだろう?……親父も俺と同じように…今の社会に憤りを感じていたのだろうか?
母さんはどーだろう??
前までみたいに明るい人じゃなくなった。
今はいつも疲れていて、泣きながら親父が割った皿を片付けてることもあった。
人なんて状況が変われば、みんな壊れていくんだ。前までの暮らしになんて戻れるはずがない。俺はずっとそう思っていた。