刃に心《第11話・二人でお留守番》-9
「「あ…」」
口から吐息のように言葉にならない声が漏れる。恥ずかしくて視線を逸らそうとした。けれど、何か不思議な力が働いて逸らせなかった。
何も言わず時が過ぎる。互いを見つめあったまま動けなかった。
二人とも鼓動が高鳴り、それが相手に聞こえてしまうのではないかと心配になった。
疾風の透き通った瞳に楓が映り、楓の潤んだ瞳に疾風が映る。
僅かに楓の顔が傾いた。それに引き寄せられるかのように疾風の顔も動き、そして…
「ただいまあ!」
居間の扉が開き、霞が帰宅。慌てて二人はソファの両端に移動した。
「…何二人して紅くなってんの?…あ…ごめん…いい雰囲気…邪魔しちゃった?」
二人はブンブンと頭が取れそうなくらい首を横に振る。
「そ、そう?私、今日早く終わったから…あの…もしそうなら…ホント…ごめん…」
「ち、違うから!」
「そ、そうだ!何にも変なことをしようとしていたわけではない!」
紅い顔をさらに紅くしながら疾風と楓は否定する。霞は気まずそうにキッチンに向かった。
「何コレ…何か大惨事になってるんですけど…」
そこには皿やコップなどの破片が散乱している。
「「あっ!」」
そのことを思い出し、疾風と楓もキッチンに向かう。その途中でまた視線が合わさり、どちらからともなく微笑んだ。
(慣れか…)
楓は心の中で呟いた。
(…よし!)
今日からしのぶに頼んで料理を教えてもらおう。
そう決心した。
負けたままなのは楓の主義に反する。
そして今度こそ愛する者の為に…
愛する者から『美味しい』の一言を聞く為に…
楓は料理に慣れることにした。
続く…