刃に心《第11話・二人でお留守番》-8
「疾風…」
「とにかく、今は此所を片付けよう。それと、そんなに気にすることじゃないよ」
疾風は元はコップだったと思われるガラス片に手を伸ばした。
「痛ッ…」
思ったよりガラス片は鋭く、人差し指から真紅の雫が垂れる。
「だ、大丈夫か?」
先程まで泣いていたことも忘れたかのように、楓が慌てた声を出した。
「らいじょうぶ。らいじょうぶ」
赤く染まった指先を咥え、疾風が笑う。
「…手当てをするからそこに座って待っておれ」
楓は疾風を居間のソファに座らせると救急箱を持ってきた。
疾風の隣りに座ると、中から消毒液を取りだし、ガーゼに湿らせ、疾風の指先を拭う。
それが終わると絆創膏を貼り、上から包帯を手早く巻き付ける。
「…終わったぞ。今日一日くらいはこのままにしておいた方が良かろう」
疾風はマジマジと包帯の巻かれた自分の人差し指を見つめている。
「…何処か変か?」
「いや、純粋に包帯巻くの上手いなって思ってさ」
綺麗に巻かれた白い包帯はそれだけで治るのが早くなりそうだと疾風は思った。
「それは…私は昔から刀傷が絶えなかったから…自然と慣れたと言うか…」
「…案外、料理もそういうものなんじゃない?」
疾風は指先を見たままで言った。
「…でも…本当は今日の買い物の時だって、私は加減が判らぬし、失敗しそうだったから4玉も買おうとしていた…具も下手に作って食べられなるのが怖かったから…」
楓は顔を伏せた。
泣きそうな顔を見られたくなかった。
「料理も慣れなんじゃない?先輩は一人暮らししてるから料理をする機会が多くて慣れてるんだよ」
「だが…」
「これからやっていけばいいと思うよ。慣れるまでには時間かかるけど、先輩だって最初は味付けが薄かったり濃かったりして悩んだんじゃない」
疾風は身体を横に座る楓の方に向けた。
「俺も炒飯作ったことあるけど、かなり酷かったな…
何していいか判らなかったから、とりあえず卵とご飯を炒めたら、何かスクランブルエッグ入りご飯みたいになったし。
しかも焦げたから味付け以前に苦味しか無かった。
…だからさ、楓の料理なんか俺のに比べたら全然マシだった♪」
疾風は照れくさそうに頬を掻いた。
「…疾風」
「何?」
「…ありがとう…励ましてくれて…」
楓は顔を上げた。二人の視線が合わさる。顔と顔の距離は30cmも無かった。