刃に心《第11話・二人でお留守番》-7
「炒飯なんだけど…」
───パリン。
説明するまでも無く皿が割れる音。
「……すまぬ…」
手から零れ落ちた皿をカチャカチャと片付け、作業再開。
「その…昼…」
───パリン。
「………」
またカチャカチャと片付ける音がする。
「あの…味は薄…」
───パリン。
「だけど…不味くは…」
───パリン。
「だから…その…」
───パリン。
「あの…楓」
───パリン?
「皿割る音で返事するなよ…」
───パリン…
「…謝るのも割る音でしないで。てか、何枚割ってんのさ?大丈夫?」
疾風はキッチンへと向かった。そこには皿やコップだったものの遺体が散乱していた。生前の面影はほとんど残っていない。
「手伝うよ」
疾風が残骸に手を伸ばした。
「…いい…私一人で出来る」
それを遮るように楓も手を伸ばす。
その時、ポタリと水滴が落ちた。洗い物で濡れた手からではない。
もっと上の方からだった。
「泣くなよ」
疾風はそう言うと近くにあったタオルを楓に放り投げた。
「泣いてなどおらぬ…泣いて…など…ぅ…っ…」
楓の頬には涙の筋ができていた。
悔しかった。
千夜子にできて自分にできなかったのが悔しかった。
味の無い自分の料理を食べた時、自分がすごく惨めに思えた。
「うっ…うぅ…」
下唇を噛み締め、必死になって涙を堪えようとする。しかし、意思に反して涙は止まらず、溢れ、落ちる。
「出来ると…思ったのだ…私にだって…」
「美味かったよ」
疾風は皿の破片を拾いながら静かに言った。
「味付けは薄かったけどさ、他の炒め加減とか材料の切り方とか先輩とそんなに差は無かったと思う」
「……嘘吐かずとも良い…」
「嘘じゃない」
疾風は真っ直ぐな瞳で楓を見た。