刃に心《第11話・二人でお留守番》-3
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「昼はどうすっかな…」
この日、一人暮らしをしている千夜子は買い物に来ていた。
「昼は…炒飯でいいか」
昼食のメニューを決定し、手慣れた様子で焼き豚や卵など必要なものを籠に入れていく。
「夕食は肉ジャガ」
三個袋入りのゴツゴツとしたジャガイモを手に取る。
「上手に出来たら、疾風に食べさせようかな♪男は肉ジャガに惹かれるって言うし…♪」
フフフ…と千夜子の不気味な笑みに周りの人が避けていく。
「…疾風が美味いって言ってくれたら…そしたら…そしたら…小鳥遊の奴じゃなくてアタシを選んでくれるかも…♪料理上手な先輩が好きです。付き合って…いや、結婚を……なんてな♪なんてな♪」
恥ずかそうに、だが嬉しそうにクネクネと身を捩る千夜子。それを他の買い物客が不審者を見るような目で見ている。
「よしッ!」
千夜子は他人の目を気にすること無く、妄想全開でガッツポーズ。そして、レジに向かおうとした時だった。
「あ、疾風…」
5m程先に疾風の姿があった。心臓がトクンと脈打つ。
だが、その脈動はすぐに治まった。
「げっ…小鳥遊も一緒かよ…」
疾風の隣りに楓の姿もあった。
「うぅ〜…仲良さそうに一緒に買い物なんかしやがって…」
今までの淡い恋の火が激しい嫉妬の炎に変化する。楽しそうに買い物をする二人を見て、チクチクと心の奥が痛んだ。
「負けるもんか…」
そう呟くと千夜子は小走りに疾風達、正確には疾風に近寄っていった。
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「ドーン♪」
「のわッ!?」
疾風の背中を千夜子が軽く押し、疾風が変な叫びとともに転びそうになる。
「ヨッ、疾風♪」
「あ、チョコ先輩。こんにちは」
相手が千夜子だと判ると疾風は頭を軽く下げた。
「…何用ですか?」
対照的に楓は不機嫌になった。
「別に〜。ただ買い物してたら、疾風を見つけたんで挨拶しに来たんだよ」
そんなことを気にする様子も無く、千夜子は疾風の持つ籠に目を向けた。
「疾風も昼飯の買い物?」
「そうです」
籠の中にはうどんが入っていた。
「…うどんか?」
「…そうです」
「……多くない?」
「……多いですよね」
うどんは全部で4玉。二人で食べるのならば、確実に余りが出るであろう。