刃に心《第11話・二人でお留守番》-2
「…こう二人で家事をしておると何やら新婚のようだな…」
ポツリと楓が呟いた。
「ふぁ…えっ?何か言った?」
疾風は目尻に涙を溜め、口許を手で覆っている。
「な、何でも無い!」
楓は恥ずかしさを隠すように、洗濯物が入っていた籠を乱暴に持った。
「まだまだやる事は山程あるのだ!欠伸なんかしておる場合ではない!」
「あ、ああ…」
何を怒ってんだろうと疾風は思ったが、その原因は一向に判らなかった。
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「さて、奥方殿から頼まれていた洗濯と掃除は済んだな」
部屋の中が輝いて見える。真面目、几帳面な性格をした楓により、角や家具の隙間などの細かい箇所からも埃は追い出された。
「何か…腹減ったな」
疾風が胃の辺りを撫でながら言った。
「お前は朝食を食べたばかりであろう」
「食パン一枚食ったところで家事を手伝わされたんだ。腹だって減るさ」
そんな疾風に対して、楓は仕方ない奴だと言わんばかりに苦笑する。
「まあ、時間も良い頃だな」
「昼はどうする?カップ麺でいい?」
「そのような軟弱で身体に悪い物は好かぬ」
「じゃあ、どうする?」
「…作るしかないだろう」
「…作れるの?」
疾風が問い掛けた。
「ば、馬鹿にするな!私だって母上の手伝いはよくしておったのだ!」
「………」
「な、何だその疑惑の目付きは!?き、貴様は私が剣しか振れぬ女だとでも言いたいのか!」
「い、いや…そこまでは…」
「なら、何処までなのだ!それとも何か?私は砂糖と塩を平気で間違えるとでも言いたいのか!?料理をすれば鍋が爆発させる特技を持っておるとでも言いたいのか!?」
「だから、そんなこと言ってないじゃん…」
「目が言っておる!」
そう言うと楓はプイッとそっぽを向いた。
「判った、判ったよ。楓に頼むよ。昼食よろしくお願いします!」
「………最初からそう言えば良いものを」
何とか機嫌が直り、疾風と楓は近くのスーパーに行くことにした。