高崎龍之介の悩み 〜初恋〜-12
「た、竜彦さん!?」
当然、美弥は慌てた声を出した。
「弟の事……感謝してる。ありがとう」
「え?」
「龍之介の事……必死に隠してたけど、あいつはずっと恵美の影にに怯えてた。でも君と付き合うようになってから寝てる間にうなされなくなったし、家でよく笑うんだ……ほんの少し前まで頻繁にうなされて、あまり笑顔を見せなかったのに」
竜彦は、笑顔を見せる。
美弥は対称的に、唇を噛み締めた。
「龍之介君……あの人に、ひどい事されたんですよね?」
竜彦は、思わず目を見開く。
「どうしてそれを!?」
「この間、聞いちゃったんです。龍之介君が、あの人に……」
美弥は言葉を切ったが、言いたい事は竜彦へ十二分に伝わった。
「龍之介君はあんなに強いのに、脆くて……私、龍之介君の力になりたい。支えてあげたい。なのに、どうすればいいのか分からない……」
竜彦は、どうして龍之介がこの女の子を好きになったのか、良く分かった。
「傍にいてあげて欲しい」
だから、助言する。
「弟には……美弥ちゃん、君が傍にいてくれる事が一番の薬で、何よりの支えだよ」
「そう……でしょうか」
自信なさ気な美弥の頭を、竜彦はぽんぽん叩いた。
「自信持って。あいつには、美弥ちゃんが必要だからさ」
自宅の門前まで来ると、美弥は行動を起こした。
「ね、龍之介」
美弥はそっと、龍之介の手に自分の指を絡ませる。
男の子らしく少し骨張っているけれど、愛撫してくれる時は限りなく甘く優しくなる手。
「ん?」
「クリスマス、どうしよっか?」
龍之介は、たちまち茹でダコになった。
「あ〜、すけべぇ」
「あーそうです。僕はすけべです」
開き直る龍之介に、美弥は囁く。
「すけべな龍之介も、好きよ」
「!・!・!」
茹でダコ状態だったが、龍之介はさらに赤くなった。
「聞きたかったのは、どっちの家で過ごそうか、って事だったんだけれどぉ〜……やっぱり、そっちの家がいい?」
十二月の二十四日には終業式がある。
ラ・フォンテーヌのクリスマスケーキを予約したし、同店のソムリエール、西崎がセレクトしたワインを開けて、二人きりで乾杯したい。
そしてもちろんその後は……。
「あ〜……うん。その方が、気兼ねがいらないし」
「何の気兼ね?」
「…………あんまりいじめないでくれる?」
美弥は、くすくすと笑った。
「ごめん」
笑いながら、美弥は絡めた指をもう片方の手で包み込む。
「傍にいるから」
龍之介の目を見据え、美弥は言った。
「?」
意味を図りかね、龍之介は不思議そうな顔をする。
「龍之介が私を必要としてくれる限り、私は龍之介を捨てたりしない。傍にいるよ」
「美弥……」
じわっと、龍之介の目が潤んだ。
「頼む、から……泣かせないでよ」
「泣かすつもりはなかったけど……本心だから。伝えなきゃいけないと、思ったから」
恥ずかしがらずに伝えたかった、嘘偽りのない気持ち。
それだけに、龍之介の心は揺さぶられる。
「僕は……」
龍之介は、伝えたい気持ちを言葉にした。
「美弥にずっと、傍にいて欲しい」