雪の舞散る世界-4
その夜、僕は後悔の念にひどく苦しんだ。
傘だ。
身勝手に借りて、未だに手元にある青い傘のことを謝れずに別れてしまった。
もう二度とないかもしれない稀有なチャンスを逃してしまい、うまく寝つけなかった。結局、眠りにつけたのは布団に入ってから二時間以上経ってからだった。
正月明けの始業式。
そこで初めて優子が引っ越した事実を知った。彼女の父親が仕事の都合でカナダに転勤になったそうだ。
僕は優子が日本ではない、果てしなく遠遐な土地に行ってしまった事でえらく落ち込んだ。
その時、優子から感謝を込めてクラスの一人一人に配られた物がこの四季折々の絵柄の入ったティーカップだった……。
教師の話しでは来年の冬には、また日本に戻って来ると聞かされたがどこにもそんな保障はありはしなかった。
優子のいない学校は全てが空っぽになってしまった。
そして再び何の魅力もない退屈な学校生活を垣間見るようになり、憂鬱な気分にのめり込んでいった。
それから二十年以上が経過した。
しかし幾度冬を待てども、ついに彼女は帰っては来なかった──。
時々、会社帰りの電車の中でふと優子を思い出すことがある。
あの人は今はどうしているのかな……
『もし謝ることができるなら……』
うたた寝を始めた妻に布団を掛けてやり、自分は紅茶を淹れたティーカップに口をつけ始めた。
雨は雪に変わり、辺りを白銀の世界へと導かんとしていた。
「終」