『 madness 』-1
あたしの部屋は、盗聴機が仕掛けられているらしい。
どこに仕掛けられているのかは解らない。箪笥の下、電話機の裏、あるいは普通に解らなさそうな場所に置いてあるのかもしれない。
そういえば最近、イタズラ電話も良く掛かってくるようになってきた。
『愛してる』だの『僕は君の全てを知ってる』だの。
全くふざけた奴だ。
言っとくけど、あたしはストーカーなんて全然怖くなんかない。付き纏うことしか出来ない軟弱男としか思ってない。
まともな愛情表現も出来ない、バカ男。ってね。
だから全然、怖くないんだ。
……♪♪…♪♪……
ほら、また電話が掛かってきた。
どうせストーカーからの下手な愛情表現だ。無視するのが1番。
『ピーッ、という発信音の後に、メッセージを残してください』
感情の篭ってないアナウンスが、いつも通りマニュアル通りにメッセージを告げる。
さぁ、今日は何て言うの?
『愛してる』
『結婚しよう』
『会いたい』
さぁ、何が来るの?
聞き飽きたメッセージなんていらない。あなたの少ない知識で精一杯の言葉をちょうだい。
『なんで電話取ってくれないんだ!!』
『寂しい! 寂しいよ! 会いたいよ』
所詮、こんなもん。
このくらいで女は振り返るものだと思ってるのかな。
はは、馬鹿みたい。……バカミタイ。
『……てやる』
あれ? まだなんか言ってる。
『殺してやる!! 僕は君の部屋も全部知ってる!! 唯一知らないのは『君』の気持ちだけ……。殺す。待ってろ』
最後のほうだけ乱暴に言い放つと、ガチャンという音と共に電話機は沈黙した。
そっかぁ『殺す』かぁ。なかなか男らしい決断じゃない。
あは。
あなたがあたしを殺すなら、あたしもあなたを殺し返すまでよ? ……あはは。
今日はパパもママもどこかにお出かけ。家には私一人しかいない。
そういえば先週、警察が来て『逆探知しますから電話は取ってください』とか言ってたっけ。
あは。ストーカーさん、あなた本当にあたしを殺しに来れるの?
別に捕まっちゃっても構わないけどさ、あたしとしちゃあ、目的の果たせない男は嫌いよ?
あぁ、なんだか喉が渇いちゃった。
自分の部屋から1階に降りて、台所に向かう。
たしかオレンジジュースがあったっけ。