俺と俺様な彼女 〜番外編〜-5
口に痛みが走る。同時に血の味が広がった。最初は意味がわからなかったが数馬が私にキスしようとしたのがわかった。数馬と目が合う。怯えた様子の数馬。それはそうだろう。たぶん今の私の顔をみたらジェイソンですら逃げ出すだろう。目の前には10秒前までは世界で一番愛しい人が、今は世界で一番憎らしい人がいた。そして私は脳からの『目の前にいるやつをぶっ飛ばせ』という命令に忠実に従った。
のたうち回る数馬を置いて私は帰路に着いた。怒り半分、恥ずかしさ半分で。いや嘘だ。恥ずかしさが全てだった。さっきの出来事で普段の私にもどったせいかその前までのセリフが死ぬほど恥ずかしかった。たぶん顔は真っ赤だろう。
家に帰ると二つの出来事が私を待っていた。
「保奈美、父さんが何をしたがわからないが許してくれ。」
訳がわからない。とりあえず、普段どうりに接することにした。
「何か知らないけど、加齢臭がするからあまり近寄らないで。」
「ぐはぁ。」
もうひとつの出来事はというと、
「姉ちゃん、顔真っ赤だよ。ポストより赤い。」ニヤニヤしながら言う貴人。
ポストより赤いってどんだけ赤いのよ。あんなのKING OF 赤じゃないの。色々とつっこみたかったが、貴人のにやけ顔とそのポストより赤いという顔をこれ以上見られたくなかったので私は無言で自分の部屋に戻った。
ベッドに横になって手近にあったぬいぐるみをつかむ。さっきまでの事を思い出してさらに顔が赤くなる。ぬいぐるみを抱きしめるが自然と笑顔がこぼれた。
そういえば、昨日もこのぬいぐるみだった。いきなり泣きつかれたり、そうかと思えばおもいっきり抱きしめられて笑いかけられたり、ぬいぐるみからしたらいい迷惑だっただろう。
「はぁ。」
頭の中でさっきまでの光景がエンドレスで繰り返されている。どうやら昨日とは違う理由で今日も眠れなさそうだ。